Science News

宇宙から積雪水量を正確に計測する

2018.8.6

パルスレーザーを用いて観測された、シェラネバダ山脈の積雪。雪の状態も分析することで雪解けのタイミングも推定できる。
パルスレーザーを用いて観測された、シェラネバダ山脈の積雪。雪の状態も分析することで雪解けのタイミングも推定できる。
Image by NASA

地球には広大な海洋があるが、人間の生活や産業活動に必要な淡水の割合は2.5%程度。利用しやすい河川水や土壌水となると、水全体の0.01%にも満たないと言われる。気候変動が激しくなっていると言われる現在、淡水資源の管理はますます重要性を増している。
淡水資源の中でも、山に降り積もった雪は人々の生活に直結する。雪解け水がどのタイミングで、どのくらいあふれ出すのかは、水力発電、生活用水、灌漑用水に極めて大きな影響を与えるのだ。
NASAとカリフォルニア州水資源局によるAirborne Snow Observatory(ASO)プロジェクト(https://aso.jpl.nasa.gov)は、先端技術によって積雪水量(Snow Water Equivalent)を計測し、ある流域に貯留されている水量と雪解けのタイミングを予測することを目的としている。ASOが中心的な観測対象にしているのは、カリフォルニア州のシェラネバダ山脈だ。シェラネバダ山脈の雪融け水は、カリフォルニア州の水需要の1/3にもなる。
積雪水量の計測には、小型飛行機に搭載されたLIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)システムが用いられる。1秒間に数十万回のパルスレーザーを照射し、反射光が戻ってくるまでの時間を測定、積雪の3Dマップを作成する。同時に、分光器で雪の反射光の分析も行う。新雪は光をよく反射する一方、雪塊は反射率が低くなる。雪の反射がどう変化するかを調べることで、雪がどのくらいのスピードで溶けるかを予測できるというわけだ。
2013年から5年間の計測で、積雪水量や雪解けタイミングの誤差は2%程度。これまでに行われてきた積雪調査において、最も正確な結果だという。
現在ASOが調査対象としているのはシェラネバダ山脈の1/3程度だが、NASAはオレゴン、ワシントン、コロラド川流域などでの調査も検討している。将来的にNASAが実現しようとしているのは、宇宙から積雪水量を正確に計測することだ。現在の観測衛星では、雪がどの程度積もっているのかが大まかにわかるだけで、正確な積雪水量まではわからない。NASAは2017年からSnowExというプロジェクトを立ち上げ、正確な計測を行うために必要な技術の選定を行っている。
地球全土の積雪水量を計測できるようになれば、気候変動についても貴重な知見が得られだろう。私たちは、地球の現在の状態についてもまだまだ知らないことだらけなのだ。

(文/山路達也)

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.