No.005 ”デジタル化するものづくりの最前線”
Cross Talk

作っている様子を見せると
コミュニティが生まれる。

田中 ── ファブラボ*7には、金属を切削加工する機械、樹脂を出す3Dプリンター、木を切る機械、ミシンという具合に、素材ごとに工作機械があって、バラバラに分かれています。その機械を組み合わせれば、ほぼ何でも作れるんです。

猪子 ── 何のパーツが一番難しいんですか。ガラスのような素材は作れないし、複雑な素材を組み合わせた半導体もまだ作れないでしょう?

──最先端の複雑な半導体を作るのに、現在は高度な技術と機械を要します。いつの日か3Dプリンターで半導体を作れる時代が来るのでしょうか。

田中 ── 導電体と半導体と非導電体、3種類の小さなブロックみたいなものを組み立てる機械はもうあるんです。マイコンとかLEDと、銅に回路を掘った基板をハンダ付けする機械です。

猪子 ── その機械って、ファブラボに置けるぐらい小さいものなんですか。

田中 ── 今は「ファブラボつくば」にあるんですが、机に置けるくらいですね。材料を拾ってピック・アンド・ドロップで置いていきます。電子回路は小さいから、作る機械も小さくていいわけです。この機械はかなり特殊なもので例外なのですが、もう少しとっつきやすい、いくつかの種類の機械を1カ所に揃えた場をファブラボと呼ぶんです。

手元で僕らが作っている様子を周りの人が見ることで、そこにワークショップの場ができたり、コミュニティが生まれたりします。デザイナーだったら、作っている様子を見せることでビジネスに繋がったりするわけで。集まってくる人へのパフォーマンスの側面もあるから、そば打ちみたいなものですよ。だからなるべく、作っている現場を透明化しています。

猪子 ── なるほどね。

田中 ── 将来は、金属用、回路用、樹脂用、布用と素材ごとに分かれている工作機械が1つになる。「パーソナルファブリケーター」というのは、いわばパソコンみたいなものです。パソコンの登場前は、ワープロとかビデオとかシンセサイザーとかバラバラに分かれていたじゃないですか。今、iPhoneの中にはワープロもあるし、シンセサイザーもあるし、何でもある。

猪子 ── ビデオカメラも、ウォークマンも。

田中 ── そうそう。そういう感じで、工作機械を全部まとめてしまおうというのが、パーソナルファブリケーターの研究の方向性です。それが本当の未来。だから現状の3Dプリンターは過渡期にあるもので、初歩の段階なんですよ。

[ 注釈 ]

*7
FabLab(ファブラボ):多数の工作機械を揃え、個人が「ほぼあらゆるもの」を作ることを目指した工房。2002年にスタートし、現在は世界20カ国以上に50を超えるラボが存在、その数は増え続けている。日本では2011年に「ファブラボ鎌倉」と「ファブラボつくば」が初めてオープン。その後、渋谷、北加賀屋(大阪)、関内(横浜)、仙台と続いている。
http://fablabjapan.org/

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