ファブをめぐる現在の状況は
ウェブカルチャー黎明期に近い。
田中 ── 今、結構スケールの大きい領域ができつつあるわけです。アメリカでは「次のGoogleは何だ」とか「次のアップルは何だ」とかいった話がガンガン盛り上がっているのに、日本で盛り上がってこない。
ビジネスの分野は世界対決なので、今アメリカと戦わないと本当にYouTubeとニコ動みたいに差が開いちゃいますよ。ニコ動ぐらいまでになれば立派だけれど。初期の検索エンジンって日本にもいろいろあったじゃないですか、gooとかinfoseekとか。
猪子 ── うちも作ってましたよ、SAGOOL*19という検索エンジン。
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田中 ── それがほとんど負けるか、つぶれてしまった。今、負けるって分かっているからやらないみたいな人も多いんですよね。「もうちょっと条件が落ち着いてから参入します」とか。
でも、負けても初期の段階から、何かわけが分からない時からガムシャラに飛び込んでいる人は必要だと思う。今作ったサービスはもしかしたら勝てないかもしれない。しかし、ここで培った経験は残ります。
だから日本の技術で社会を面白くしようと思っている人、全員にとっては、リセットというか、リブート(再起動)の大切な時期なんですよ。何でシーンとしているんですかねぇ。チームラボもドカンと投資をして事業を始めていいと思いますよ、今。
猪子 ── やるとしたら家庭用なのかな。家庭用というよりマンションに1台ぐらいそういった機械があればいいのか。
田中 ── ファブラボというのは、そういうものをみんなで共有する場なんです。
猪子 ── 僕らもファブラボのようなところで使われる機械に何らかの形で参入しないといけないでしょうね。
日本ではどこに集中したらいいのかと興味があったので、まずはDMMとユーザーが気軽にパーソナル・ファブリケーションにタッチできる新サービスhttp://make.dmm.com/を始めたんですよ。みんながオンラインに3Dのデータをアップしてプリントできる仕組みですが、データも共有して、そのデータを改編して再アップして、という。
田中 ── それはいいニュースです。
猪子 ── ただ、コスト革命もしたかったんだけど、これは案外できなかったですね。機械を作るのが面白いなら、やりたいかも。
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──大量生産の消費材ではなく、工作機械などの生産財を作る製造業に未来はありますか。
田中 ── 面白いことにそれは残っていくんです。アップルが残るのと同じ論理で、パーソナルファブリケーターを作る会社は生き残りますよ。
猪子 ── 儲かりそうだしね。
田中 ── だから僕はそれを研究としてやりたいんです。今、スティーブ・ジョブズが生きていたら、絶対3Dプリンターを作ったと思うな。「アイファブ」みたいな。
猪子 ── いや、ジョブズは作ってないはずだよ。ビル・ゲイツはやると思うけど、ジョブズは自分の完成品を広めたい人だから。
田中 ── 確かに、マイクロソフトはもう3Dプリンター対応ドライバを出しましたね。日本のメーカーの現状を見渡すと、海外の3Dプリンターを輸入しているところばかりなんです。
──学生にはなんと言っていますか?
田中 ── ファブラボ周りでやってきた学生は、本当に大チャンスなので就職なんかしないでも大丈夫!と、やや強めに言ってますね(笑)。これはもちろんアジテーションなんですが、学生にはあり余る時間を使って、新しいことに挑戦するビッグチャンスです。
インターネットで言うと1995年ぐらいの感じと似ています。ここから新しいビジネスの種が作られようとしている頃で、やっぱり、ウェブの初期とかなり似ているんですよね。ここは自己投資しなければいけないフェーズだと僕は思います。
──95年頃のような大チャンスとおっしゃいましたが、その5年後にインターネットバブル*20は弾けました。
田中 ── もちろん、バブルのときはブームに乗っただけの偽物もたくさん生まれるわけです。興味本位で中身がないものや、実力がないのに作った会社は当然なくなりますけど、実力がある人もやらないのはマズい状況だと思うんですよ、この分野で。
僕はよく「ファブラボとは必ずしも製造業の復権を担うものではありません、ウェブベンチャーの新しいかたちです。ウェブの世界をフィジカルとつなげる活動です」と説明しています。そこに支援が来ないと、またアメリカに全部負けてしまうんじゃないか。それは結構心配ですね、西海岸の勢いを目の当たりにすると。
[ 注釈 ]
- *19
- SAGOOL(サグール):チームラボビジネスデベロップメントが独自開発、2006年に発表した検索エンジン。人の主観に基づく「おもしろいもの」「ディープなもの」「コアな情報」を上位にランクするアルゴリズムを採用した。12年サービス終了。
- *20
- インターネットバブル:1990年代末、日本ではインターネットや携帯電話、電子商取引や通信関連企業に投資が集中。ITベンチャー企業の株価が高騰した。99年〜2000年をピークに崩壊。アメリカではドットコムバブルとも表現される。