No.005 ”デジタル化するものづくりの最前線”
CROSS × TALK デジタルファブリケーションは消費社会を終わらせるのか?

3Dプリンターや3Dスキャナーの登場によって注目を浴びている、個人によるものづくりの可能性。
この世界的なメイカーズ・ムーブメントは一過性なのか。
それとも、新しい時代の幕開けなのか。
ビジネスの可能性やメディア論まで、従横に話題を展開し二人の旗手が語り合った。

(構成・文/神吉 弘邦 写真/MOTOKO)

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現在の3Dプリンターの性能は、
未来のプロトタイプにすぎない。

田中 ── 3Dプリンター*1が宇宙ステーション*2に設置される計画があるんですよね。宇宙へ行く時に、事前に何が必要になるか、完全に予測できるわけではないから、その場で必要なものを作れるのは便利でしょうね。

猪子 ── ロケットに載せるにも、体積効率が上がるからいいですよ。例えば、他の星に基地を作る*3ときでも、現場で作った方がコストメリットがあるだろうし。そういった面を考えてアメリカはスゴいお金をかけているんじゃないかな。

田中 ── 実際にNASAが多額の予算を付けているんです。

猪子 ── 結局、その技術がパーソナル・ファブリケーション*4にも戻ってくるんだよね。

田中 ── まだ世の中に出てきてませんが、将来はiPhoneみたいなものさえ出力できてしまう、超小型3Dプリンターを考えている人って世の中にたくさんいますね。

田中研究室製作の3Dプリンター試作モデルの写真
[写真] 田中研究室が改造中の3Dプリンター試作モデル。ラップトップ型で、たたんで鞄に入れられるものをさらに改良している。

今日は既存の3Dプリンターをハックしながら作っている試作モデル*5を研究室から持ってきました。これはラップトップ型なんです。たたんで鞄に入れられるんですが、こうやって広げて、ソーラーパネルで稼動する仕掛けを考えています。

猪子 ── どんな使い方をするんですか。

田中 ── 例えば、ピクニックとかに行くじゃないですか。それでちょっとコップが足りないといったシーンで、サッとコップを作るのが当然のような世界になる。素材が土に還る生分解素材なら、使い捨てにもできるし。それって面白くないですか?

猪子 ── いいね。ところで今の3Dプリンターの性能ってどれくらい?

田中 ── まだ原始的なレベルです。最初にスティーブ・ジョブズたちが世に出したアップルワン*6と一緒で。今は樹脂でフィギュアを作る程度のことしかできませんが、15年後には3DプリンターだけでPCやiPhoneが出てくるかもしれませんよ。

猪子 ── でも15年もかかるんだ。

田中 ── 今の3Dプリンターは、まだ3次元のモノの表面しか作れません。中の回路とか機構とかは含ませられない。単に「かたち」だけです。回路や機構も含んで、ポンと中身の詰まったiPhoneの最終形が1つ出てくるのは15年から20年先と予測されていますね。

中の回路や論理素子、ディスプレイ、金属などの素材が同時に出せるような3Dプリンターの開発が進んでいるようです。

[ 注釈 ]

*1
3Dプリンター:2次元である従来の紙に出力するプリンターに対して、3Dの造形データを元に、3次元の立体物を生成するプリンター。紫外線硬化性の樹脂を高解像度で噴射して紫外線ランプで固めながら積層していく(インクジェット紫外線硬化方式)、熱可塑性樹脂を高温で溶かし積層させていく(熱溶解積層法方式)、樹脂や石膏などの粉末に接着剤を吹きつけていく(粉末固着積層法方式)ほか、複数の方法がある。
*2
宇宙ステーションに設置される:アメリカ航空宇宙局(NASA)は今年7月、微重力状況下でも使用できる3Dプリンターを2014年前半までに国際宇宙ステーション(ISS)へ搬入する計画を発表。必要なパーツやスペアの部品をクルーがその場で作り出すシーンが見込まれる。
*3
他の星に基地を作る:欧州宇宙機関(ESA)は今年1月、月で調達できる素材を利用して、月面基地を建設する計画を発表。英国の設計事務所、フォスター・アンド・パートナーズが参加。3Dプリンターは現在、地球上ではすでに建築の現場で利用が始まっている。
*4
パーソナル・ファブリケーション:MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボのニール・ガーシェンフェルド教授が『ものづくり革命』で提唱した概念。3Dプリンターやレーザーカッターといった道具を活用して、やがて「ほぼなんでも自分で作る時代」がやって来ると予言。
*5
既存の3Dプリンターをハックしながら作っている試作モデル:「これは『PrintBot』という海外の3Dプリンターを研究室で"改造"しているものです。オープンソースの折り畳み式3Dプリンターの改造プロセスに参加していると考えてください」(田中氏)
*6
アップルワン(Apple I):アップルコンピュータをスティーブ・ジョブズと創業したスティーブ・ウォズニアックがほぼ独力で開発、1976年に発売されたパーソナルコンピュータ。キーボードや筐体はなく、回路基板のキットで発売された。

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