No.005 ”デジタル化するものづくりの最前線”
Cross Talk

技術を知ってもらうには、
触ってもらうのが一番。

猪子 ── デジタルファブリケーションでは、どの分野に日本からイノベーションの可能性がありそうなんですか。

田中 ── 注目しているのは、やっぱり素材。リサイクルが絡んでくると面白いです。ものが自然に還っていく姿とか、溶けていく様子がアジアっぽいなと思っていて。僕は今度、東南アジアへツアーに出ます。インドネシア、フィリピン、スリランカ、インドといった国を巡って、アメリカ人には思い付かないようなものづくりのヒントを、アジア人として考えてみたいです。

猪子 ── ペットボトルを入れたら、すぐリサイクル素材として利用できる3Dプリンターなんて、実現可能なんですか?

田中 ── ちょうど今、それを大学で試作しているところです。どこかパートナーを見つけて、製品化までしたいですね。

あとは4Dプリンター*10と呼ばれるものを作っています。3Dプリンターはできたまま形が止まっているじゃないですか。これが変化していく、時間軸を取り込んだプリンターです。できたものを水に入れると形が変わるというものを作っている友人の研究者もいるんです。5年後ぐらいのイメージでは、植物の成長と一緒に形を変える植木鉢などが考えられますね。

猪子 ── えっ、どういう仕組みで?

田中 ── チリのサンティアゴとの共同研究の計画なんですが、バクテリアなどを使おうと思っています。形が出てきた後も成長していくんです。こうしたバイオプリンター*11は、まだ研究所レベルにありますね。

猪子 ── 細胞が外部から栄養を取って増殖するということ?

田中 ── 増殖まではそこまで簡単にいきませんが、それもイメージの1つです。想像だけで言えば、シャーレに人工細胞が1つあって、それに触媒となる人工細胞を入れると、バーッと増殖したり、細胞分裂をいきなり始めるみたいな。細胞と細胞の組み合わせというのがあって、これを組み合わせるといきなり増殖する。あったらいいなのレベルですけど。そういうのがもう少し実用に使えるようになれば面白いんじゃないかな。世の中に出すには技術のほかに、まだまだ法律面での問題などがありますけど。ファブとバイオはかなり相性がいいので。

猪子 ── ハンパなく面白いな!

田中 ── 3Dプリンターだけじゃなくて、まだワクワクするテーマがファブの周りには山ほどありますよ。

──ただし、3Dプリンターをめぐる負の側面も報道がなされますよね。

田中 ── それは、3Dプリンターで銃が作られた*12話ですよね。この前、猪子さんが出演されたテレビの討論番組を見ましたが、そこでも「だから技術の進歩は問題だ」と指摘されてました。

猪子 ── ええ。ある観客が「研究者の皆さんはそういうリスクを考えて研究されているんですか?」と言ったんです。出演者の方は「社会的なリスクを考えながら研究しています」なんて答えていたけど、僕はどうしても納得いかなくて、その質問者に怒っちゃって。放映はほとんどされていませんでしたが……。

──リスクのみを取り上げるような見方は、先端研究の妨げになってしまう可能性がある、という意見ですね。

田中 ── 本当は研究者が自分で言わなきゃダメなのかもしれない。たとえ3Dプリンターを持っていなくても、銃を作る人は世の中にたくさんいるわけですよ。それに3Dプリンターで銃を作れる人は、3Dプリンターを持っていなくても作れる人であるはずなんです。なぜかと言えば、作り方がもうウェブに載っていますから。

新しく登場した技術に対して、とにかく危ないと叫ぶほとんどの人たちは、それを使ったことがないんです。楽しさや可能性というのは、自分で接してみないと分からない。自分で接してみることで、「確かに危険だ」ということも分かる。しかし、同時にそれをコントロールする方法も学ぶのです。自動車と同じですよね。

自分が触れたことのないものは、情報として「何となくそうだ」と判断してしまうのが人間で、この壁を破っていかないといけないと思っています。

[ 注釈 ]

*10
4Dプリンター:「自己組織化するものづくり」がテーマのMIT研究員、スカイラー・ディビッツが取り組んでいる。
http://www.ted.com/talks/lang/ja/skylar_tibbits_the_emergence_of_4d_printing.html
*11
バイオプリンター:人工血管や細胞を3Dプリントして精製、医療用途への貢献が期待される装置。ナノテクノロジーを応用した3Dナノプリンターの開発も進んでおり、将来は分子医療の分野にも普及が期待される。
*12
3Dプリンターで銃が作られた:2013年5月、アメリカの非営利団体 Defense Distributedが、3Dプリンター製拳銃「リベレーター」を発表。国防省の規制により、現在はホームページから設計図をダウンロードすることはできない。

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