デジタルとフィジカルの融合を
ずっと夢見ていた。
田中 ── 猪子さんは僕の3つ年下だから、高校生の時にインターネットに出会ったんですよね。
猪子 ── ネットのインパクトがあったから、徳島から東京に出て来ようと思ったんですよ。インターネットさえあれば、自分と同じことをやろうと考えている人にすぐ出会える時代になったんだと思って。
──猪子さんは常々、インターネット上の世界と比べて「質量のあるものはダサい」という発言をされていますよね。
猪子 ── すべてのモノは軽くなるとカッコいいと思うからです。それは皆、無意識に思っているはず。例えば「MacBook Air」が出た時もそう。見た目が薄くて軽そうに見えることでカッコいいと感じたわけでしょう?
3Dプリンターは、単にモノをデザインすることを超越して、すべての物質の概念を"軽く"する。僕はその点で、3Dプリンターがカッコいいと思っています。
田中 ── ネットの登場前と後では、まるで違う世界ですからね。最近、昔の『ドラえもん』全巻を読み直したんです。そうしたら、ドラえもんが描かれた頃にはインターネットがないことに気づきました。だから21世紀のテクノロジーのイメージが全部フィジカルなものなんですよ。鏡に映ったものが増殖する「フエルミラー」とか、しゃべった言葉が固体になって飛んでいく「コエカタマリン」とか。
それが今、3Dプリンターで全部できる。増やしたいものを3Dスキャンして100個増殖させるとか、しゃべった声を3Dプリンターからボコボコ音声認識して出すとか。いよいよドラえもんの世界を実現できる時代なんですね。このワクワク感を多くの人に何とか伝えたいんです。
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──田中さんがデジタルファブリケーションに関心を持ったのはいつ頃ですか?
田中 ── コンピュータは昔から好きです。僕は小学校の時からPCを持っていました。ファミコンを買ってくれと父親にねだったら、「ゲームをやりたいなら自分で作れ」とPC8801*8というパソコンを小2の時に買ってもらったんです。
猪子 ── ほんとですか。何をしているお父さんですか。
田中 ── 大学の物理学者ですね。
猪子 ── いいお父さんだ!
田中 ── 僕は小4の時にゲーム機のプログラミングコンテストで賞を獲った*9コンピュータ少年なんですよ(笑)。ただ、何かスゴいことをコンピュータ上でやっていても、周りの人からスゴさが見えない。
猪子 ── 今だと見えやすいんだけどね。
田中 ── 当時は建築というものが総合芸術の代表格のように思えて建築科に進んだわけです。やっぱり入ってみたら、僕は別に図面を引きたいわけじゃないよな、と思ったんですよね。
コンピュータにはいつも触れていたいから、デジタルとフィジカルの両方がやれるフィールドがないかと思って、ずっと模索していました。メディアアートの作品も発表してきたんですが、それらは美術館というフィールドから外に出ない。そんなもどかしさを感じていた時、ファブラボという存在を知ったんですね。
3Dプリンターを最初に僕が見たのは2007年で、翌年にはもう自宅に3Dプリンターを買っていました。
[ 注釈 ]
- *8
- PC-8801:1981年にNECが発売した8ビットパソコン。83年に後継機のPC-8801mkII、85年にホビー志向を高めたPC-8801mkIISR、同TR、同FRが発売された。
- *9
- ゲーム機のプログラミングコンテストで賞を獲った:PC-8801mkIIFRでプログラムを書き「マイコンアイディアコンテスト」で札幌市青少年科学館長賞ほかを受賞。