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歯に描かれた電子タトゥーが、
虫歯や感染症を予防する

2012.5.21

歯に取り付けられたセンサー
歯に取り付けられたセンサー。グラフェン(1原子の厚みの炭素の層)のナノセンサーをシルク基盤にプリントしたもので、無線ICタグと誘導コイルが備わっている。
Photo Credit : McAlpine Group, Princeton University

医療分野では、ナノテクノロジーを応用したさまざまなセンサー類の開発が進んでいる。例えば、以前本サイトでも紹介したイリノイ大学のEES(Epidermal Electronic System)はタトゥーシールのようなデバイスで、心拍数や脳波などのデータをモニターする。
一方、プリンストン大学の研究チームが開発したのは、グラフェン(1原子の厚みの炭素の層)のナノセンサーをシルク基盤にプリントしたもの。無線ICタグと誘導コイルが備わっているので無線での電力供給やデータの読み出しが可能である。
これを例えば歯に貼り付けると、シルク基盤は水に溶けてセンサー部分だけが残る。 このセンサーには、あるペプチド(アミノ酸の連なったもの)が含まれており、微生物がこのペプチドと反応するとわずかな電流がグラフェンに流れる。すると、その情報が無線で外部に伝えられるというわけだ。口内にどんなバクテリアがいるのかを調べて、正確にモニターすることができるようになるので虫歯や歯周病の予防に使えるかもしれない。もっとも、現在のセンサーは歯磨きで簡単に剥がれてしまうという課題は残っている。
このセンサーが使えるのは、歯に限らない。センサーは柔軟なので、さまざまな軟組織にも貼り付けることができる。
また、研究チームが虫歯以外の応用例の1つとして検討しているのは、バクテリアによる感染症の探知だ。中でも耐抗生物質の黄色ブドウ球菌による感染症は、患者を死に至らしめることもあり、医療関係者にとって大きな課題になっている。今回、点滴用バッグにグラフェンのセンサーを取り付けて、さまざまなバクテリアが含まれる水溶液を注いだところ、わずかに含まれていた黄色ブドウ球菌を検出することができた。センサー自体の耐久性などにまだ課題はあるが、患者の歯を診るだけでバクテリアの感染状況をリアルタイムで把握できるようになる日が来るかもしれない。

(文/山路達也)

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