No.004 宇宙へ飛び立つ民間先端技術 ”民営化する宇宙開発”
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理論

寒冷化、温暖化をどう考えるべきか?

それでは、仮にマウンダー極小期並みに、太陽活動が低調な期間が長期間続いたとしたらどうなるだろう?

太陽の活動と地球の気温には相関があることがサクラの開花時期などのデータからわかっており、北半球の平均気温はマウンダー極小期で-0.6℃、ダルトン極小期で-0.5℃低かった。また、過去6,500年間のデータを見ると、黒点数の少ない時期とヨーロッパの寒冷期はほぼ一致しているのである。日本の京都においても、いずれの極小期でも平均気温が2.5℃低くなっている。

1940年以降、地球の平均気温は30年で約0.5℃上昇しており、多くの研究者がこの温暖化の原因は人間の活動によるものとしている。しかし、もしマウンダー極小期のような太陽活動の停滞期が訪れたとすると、地球温暖化による気温の上昇分を相殺する可能性もある。

いったい、地球は温暖化するのか寒冷化するのか? 私たちはどう備えるべきなのか?

「太陽が本当に停滞期に入るのかどうかを知るには、あと10年程度観測を続ける必要があります。政治家や経済界の方々からも、地球は温暖化するのか寒冷化するのか教えてほしいといわれていますが、現時点で確かなことはいえません。しかし、温暖化するというシナリオだけではなく、寒冷化を含めたその他の可能性についても検討し、観測を怠らないことが重要でしょう」(常田教授)

ちなみに、太陽活動が地球の気温に影響を与えていることは間違いないが、そのメカニズムについてはまだよくわかっていない。

仮説はいくつかあり、その1つは太陽の明るさが黒点数の増減に合わせて変化する(黒点数の多い時期は、太陽が少し明るくなる)というもの。ただ、黒点数の増減によって、太陽から放射されるエネルギーは0.1%程度しか変動せず、これだけでは過去の気温変化を説明しきれない。これ以外の説としては、紫外線量の変動が地球上層大気に与える影響や、銀河宇宙線の影響といったものがある。後者の銀河宇宙線は、先に述べたとおり、太陽の活動が活発な時は、太陽風や磁場によって太陽系内に入り込みにくくなる。逆に、太陽活動が停滞して銀河宇宙線が入り込むと、それによって雲が形成されやすくなり、地球の気温が下がるという仮説がある。

黄道面を離れて太陽を見下ろす次世代太陽観測衛星

国立天文台では、より精密な太陽観測を行うため、新しい観測衛星のプロジェクトを進めている。次世代の太陽観測衛星「SOLAR-C」衛星は、ひので(SOLAR-B)に比べて、観測装置の解像度を10倍に高めることを目標にしており、2010年代の打ち上げを目指している。

SOLAR-Cの目的の1つは、どういう状況になったらどこでフレアが起きるか予報できるアルゴリズム(シミュレーション計算式)の開発だ。常田教授によれば、大フレアの発生の仕組みを解明できれば、宇宙天気予報の精度を高められ、さらに10年単位、100年単位での太陽活動の変動についても予測できるようになるという。

その次の「SOLAR-D」衛星には、非常に野心的な構想が盛り込まれている。従来の人工衛星や探査機は、基本的に黄道面、つまり地球の公転軌道面から太陽を観測していた。これだと太陽の赤道周辺はよく見えるが、南北の極域の状況がよくわからない。そこで、SOLAR-Dは黄道面を離れて、太陽を極方向から観測することを目標に掲げている。

「黄道面に対して垂直の軌道で周回できれば、太陽の北極を観測した3ヶ月後には赤道付近、その3ヶ月後には南極を観測することも可能になります。このような観測機は今までありませんでした。ただし、黄道面を離れるためには、はやぶさ搭載のイオンエンジンμ10の2倍の出力を実現できるエンジンが5台は必要な計算ですから、技術的には大きなチャレンジですね。SOLAR-Dは、2030年頃の完成を目指しています」(常田教授)

日本の太陽観測衛星とロードマップ(グラフ縦軸は黒点数)の図
[図表3] 日本の太陽観測衛星とロードマップ(グラフ縦軸は黒点数)
Credit:国立天文台

宇宙にはブラックホールや銀河の形成といったさまざまな謎がある。だが、太陽が地球にどのような影響を与えているのか、まだ私たちにはよくわかっていない。これまで気象や気候分野の研究は、太陽活動などの天体現象をほとんど考慮してこなかったが、これからは太陽観測などの天文学、さらには素粒子を扱う物理学の知見も、気象学にも大きな影響を及ぼすことになるだろう。

身近な太陽は、実は科学のフロンティアなのだ。

Writer

山路 達也

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーのライター/エディターとして独立。IT、科学、環境分野で精力的に取材・執筆活動を行っている。
著書に『インクジェット時代がきた』(共著)、『日本発!世界を変えるエコ技術』、『弾言』(共著)など。
Twitterアカウントは、@Tats_y

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