No.004 宇宙へ飛び立つ民間先端技術 ”民営化する宇宙開発”
CROSS × TALK 日本の宇宙開発の未来。

1990年代、東京大学大学院の研究室で、中須賀教授と山崎飛行士は共に宇宙を夢見ていた。新たなフロンティアに踏み出した人類について。また、そこでの工学や技術の醍醐味とは。
日本と世界の宇宙開発の現場を伺った。

(構成・文/神吉 弘邦 写真/MOTOKO)

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私たちは宇宙でも、
日常生活ができる。

山崎 ── 今日は宇宙へ行ったとき、実際に使ったものを持ってきました。レザーマンのいわゆるツールナイフ、市販のものでアメリカ製です。

ペンチがあったり、よく使ったのがハサミですね。国際宇宙ステーション(ISS)*1にはツールボックスが2セットあるんですが、わざわざそこまで取りにいくまでもない作業なら、手元のこれでやってしまいます。

宇宙食を開けるとか、そういったときによく使いました。さすがに栓抜きは使わなかったですね。

中須賀 ── 上って、お酒は飲めないんですか?

山崎 ── さすがに飲めないです……。

中須賀 ── それはオフィシャルな回答でしょう。ロシア人がウォッカを飲んでいないはずがないと思う(笑)

山崎 ── クリスマスなどのお祝いごとのときは、ちょっとなら乾杯はできるんですけどね。

中須賀 ── 宇宙食は美味しかったですか?

山崎 ── ええ。カレーなどはとても美味しいですよ。無重力では地上にいるときと味覚が少し異なりますから、濃いめの味付けですけれどね。ロシアの宇宙食がなかなかのレベルなんです。ボルシチとか。

中須賀 ── へぇ。宇宙ステーションの中に匂いがこもっていたりしますか?

山崎 ── 人間が生活する空間ですから、やっぱりあります。私はスペースシャトルで打ち上がって3日目に国際宇宙ステーションとドッキング*2しました。初めて乗り移ったときはこもった匂いを感じます。食べ物の匂い、いろんな人の体の匂い、あとは実験で使う試料のさまざまな匂い。それらがギュッと溜まっている感じです。

しかも、ホコリが地上に下りずに全部浮いているから、鼻もムズムズしてクシャミばかり。ただ、1日、2日経つと鼻の方が慣れて、あとは気にならなかったです。

中須賀 ── 基本的にはクリーンルームレベルの清潔さと聞いていましたが、体感しないと分からないことですね。

ウェットティッシュの写真
[写真] ロシア製ウエットティッシュ

山崎 ── これはフェイスタオルぐらいの大きさのウェットティッシュ、ロシア製です。お風呂やシャワーは使えないので、体を拭く用途ですね。スッとする清涼成分を含んでいるので、非常に気持ちよく使えました。ロシアのクルーには1日に1個、配布されます。アメリカでスカイラブ*3の時代にシャワーを搭載したことがあるんですが、水が飛び散るし、使った後に拭いたりする作業が大変だったんですね。

宇宙に行って一番意外で驚いたのが、人って、宇宙で日常生活できるんだなぁということ。朝起きて、体を拭いて、ご飯を食べて、仕事をして、夜寝て、と。普通に過ごせるんです。

中須賀 ── 無重力で気持ち悪くはならなかったですか?

山崎 ── 私は大好きでした。人によるんでしょうね。

中須賀 ── 僕も無重力状態は5回、パラボリックフライト*4で体験しているんです。20秒ぐらいのものを、1時間のフライトで10回ぐらいやるんですね。僕は全く問題はなかったんですが、ダメだった研究室の学生も多くて。1回目でダメだと、あとの9回は気持ちが悪くて地獄ですよ。途中で降ろしてはくれないし(笑)、実験作業もさせますからね。

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