「太陽」の謎を解明する。
地球は寒冷化するのか?
- 2013.03.21
私たちにとって身近な太陽は、多くの謎に満ちている。太陽活動は周期的に変動しているが、現在その活動に数百年ぶりという異変が起こっているという。太陽の異変は、はたして私たちにどんな影響をおよぼすのか?「ひので」を始めとするさまざまな探査機によって解明されつつある、太陽の謎に迫った。
宇宙の天気を予報する
宇宙的な視点から見ると、太陽はごくありふれた恒星に過ぎない。しかし、地球の環境は、太陽の活動に大きな影響を受けている。太陽からの光や熱があったからこそ、地球上の植物が光合成を行い、それを動物が食べるという生命のサイクルが生まれた。そう考えれば、生物由来の化石燃料も、元を正せば太陽からのエネルギーということになる。
太陽が地球に与える影響は、目に見える光(可視光)や熱に限らない。太陽からはさまざまな電磁波や粒子が放射されており、これが地球の磁場を変化させ、時にはオーロラを生む。太陽表面での爆発現象、フレアが起こると、強いX線や紫外線が放出され、地球の電離層が乱れるため、短波通信ができなくなるデリンジャー現象が起こる。現在では、短波通信が使われる分野は減ってはいるものの、航空無線などではまだ広く利用されているため、通信障害の影響は少なくない。また、水素の原子核、プロトン(陽子)が突然増加するプロトン現象が起こると、地球の磁場が大きく乱れるだけでなく、コンピュータの回路を狂わせてしまったり、宇宙ステーションの宇宙飛行士の健康に悪影響を与えてしまうこともありえる。
そのため、太陽活動がどのように地球に影響するのかを、事前に予測しようという「宇宙天気予報」の取り組みが各国で進んでいる。
現在、太陽観測のために活動している人工衛星としては、NASAのACE探査機や、NOAA(アメリカ海洋大気庁)の気象衛星GOES、NASAとESAが共同で運用しているSOHO探査機、STEREO探査機がある。ACE探査機は太陽や太陽系外からの高エネルギー粒子、GOESは太陽からのX線やプロトンなどの観測を行う。SOHO衛星は、ラグランジュポイントL1という太陽と地球の重力バランスが釣り合った場所に位置しており、コロナ(太陽を取り巻いている、100万度という超高温のプラズマ)や太陽風(太陽から吹くプラズマの流れ)を観測する。また、STEREOは、2機の探査機を使って太陽からのコロナガス噴出などを立体的に観測するために使われている。また、日本の「ひので」は、高解像度の可視光・X線望遠鏡を搭載しており、磁場やコロナの観測を行っている。こうした衛星、探査機からのデータは世界的に広く公開されており、14カ国が加盟する国際組織ISES(International Space Environment Service)で観測データや予測データを共有している。
日本では、情報通信研究機構(NICT)の宇宙環境インフォマティクス研究室が宇宙天気予報を担当し、各国の人工衛星のデータや、国内および南極の電離層観測装置などのデータを元に、太陽活動や太陽風、地磁気(地球が持つ磁気)の予報を毎日出している。この宇宙天気予報は、JAXAや衛星運用会社が利用しているという。
宇宙環境インフォマティクス研究室が現在進めているのは、宇宙天気予報を、地上の天気予報並みに使いやすくするための取り組みだ。
「太陽風については、1時間ほど先の予報精度もだいぶ上がってきました。しかし、まだ地上の天気予報と宇宙天気予報では、数値予報の面で大きな隔たりがあります。例えば、フレアが起こった時に放出されるX線の強度は重要な指標の1つですが、それが必ずしも地球に影響を与えるとは限りません。太陽風と地球の磁場の向きによって作用が変わってきますが、今のところは1時間先の予報ができる場所でしか太陽風の磁場の向きが測れていないのです。そこで、現在地上や宇宙での観測点を増やし、シミュレーションの精度を上げようとしています」(独立行政法人 情報通信研究機構 宇宙環境インフォマティクス研究室 研究マネージャー 長妻努博士)
将来的には、「××日××時頃、70パーセントの確率で、人工衛星に影響のある磁気嵐が起こる可能性があります。宇宙ステーションの乗組員は、防護体制を取ってください」といった予報を聞けるようになるかもしれない。