No.004 宇宙へ飛び立つ民間先端技術 ”民営化する宇宙開発”
Scientist Interview

民間月面開発への一番乗りを目指せ!

Google Lunar X PRIZEへの挑戦

2013.05.31

吉田 和哉 (東北大学大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻
スペーステクノロジー講座 教授)

月面にローバー(探査車)を送り込み、走らせることができたら勝ち——そんな賞金レース「Google Lunar X PRIZE」が始まっている。世界中から技術の腕自慢が集まり、しのぎを削っているが、日本から唯一参加しているのが「ホワイト・レーベル・スペース」チームである。ローバー開発を率いるのは東北大学の吉田和哉教授。大学教授がなぜ賞金レースに参加することになったのか、どんなローバーを開発しているのか、詳しく話を伺った。

(インタビュー・文/大塚 実 写真/MOTOKO)

月面の賞金レース「Google Lunar X PRIZE」

──まず最初に「Google Lunar X PRIZE」(以下GLXP)について教えてください。

米国のXプライズ財団が主催しているコンペティションです。月面に辿り着いて500m以上移動できた最初のチームに、優勝賞金として2,000万ドル(1ドル=100円換算で20億円)が贈られるというもので、そのほか、水を発見するなどの条件を満たしたチームに対してはボーナスもあります。賞金総額は3,000万ドル(同30億円)になりますが、コンペの名前を見て分かるように、賞金はあのGoogleが出しています。

Google Lunar X PRIZE
http://www.googlelunarxprize.org/

ルール
1. 月面に着陸して500m以上走行すること
2. 移動前と移動後に撮影したHD動画等を地球に送信すること
3. 以上を民間資金で2015年末までに達成すること
[図表1] Google Lunar X PRIZEのルール概要
対象 賞金額
1位 課題を最初に達成できたチーム 2,000万ドル
2位 課題を2番目に達成できたチーム 500万ドル
ボーナス賞 アポロ着陸点等の歴史的遺産を撮影したチーム 最大400万ドル
水を発見したチーム
5km以上の長距離移動に成功したチーム
越夜に成功したチーム
特別賞 多様性を促進したチーム 100万ドル
総額 3,000万ドル
[図表2] 賞金の内訳。1位、2位のほかボーナスもある

参加者はそれぞれ、月面を移動するローバー(探査車)と、ローバーを乗せて月面に降りるランダー(着陸船)を開発する必要があります。また、主催者が月まで運んでくれるわけではないので、打ち上げのためのロケットも、参加者が自前で用意しなくてはなりません。コストの安い「Falcon 9」ロケットを検討しているチームが多いようですが、打ち上げ費用を安く抑えるために、複数チームによる"相乗り"もあるかもしれません。

──世界中から多くのチームが参加していますね。

やはり米国のチームが多いですが、欧州、アジア、中東、南米から参加しているチームもあります。参加登録が締め切られた2010年末の時点では、世界中から30チーム以上が名乗りを上げていました。

ただ、この内すでに10チームほどが合併や撤退により姿を消しました。GLXPが発表された当時、世界中から注目され、みんな我こそはと手を挙げましたが、実際にやってみると、1つのチームだけで全てを達成するのは非常に困難。ほぼ不可能に近いと言っていいほどです。この先は、実力のあるチーム同士の合併がさらに加速するでしょう。

期限は2015年末までなので、あと2年半ほどありますが、おそらく、今年が正念場になるのではと思っています。残り時間を考えると、今年中に具体的な準備段階に進めないチームは、もう間に合わない。今年はある程度、そうした見極めができるようになる年だと認識しています。

──最終的には何チームが打ち上げまで行けるでしょうか。

2〜3チームくらいでしょう。5チームも残れば、かなりすごいことだと思います。

──その中で、吉田先生は唯一の日本チームとして参加しています。

私は「ホワイト・レーベル・スペース」(以下WLS)というチームで、ローバー開発を担当しています。実はこのチームも、最初は日欧混合のチームだったのですが、ランダー開発を担当していた欧州チームが撤退してしまって、現在は日本単独のチームとなっています。このあたりの経緯については、後で詳しくお話ししたいと思います。

WLSチームのランダーとローバーの構想図の写真
[写真] WLSチームのランダーとローバーの構想図。ところが、ランダーを開発する予定だった欧州チームが撤退してしまった。

ホワイト・レーベル・スペース
http://wlsj.jp/

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