No.004 宇宙へ飛び立つ民間先端技術 ”民営化する宇宙開発”
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ニッポン発小型衛星ビジネスの幕開け

中小企業も宇宙ビジネスに参加できる時代がやってくる

  • 2013.04.22
  • 文/山路 達也

日本の宇宙開発は、これまで科学研究が中心だったが、2008年の宇宙基本法成立以降、この状況が大きく変わりつつある。そのカギを握るのが、小型衛星だ。
現在、新興国を中心として地球観測衛星市場が拡大している。低コストで高性能な衛星のニーズが高まり、日本も「官民一体となった市場開拓」というフレーズを掲げて、各国への売り込みを図っている。メーカーや大学、ベンチャー企業などの取り組みを紹介し、小型衛星ビジネスの最前線をレポートする。

新興国を中心に、小型衛星ビジネスの需要が拡大している

かつて宇宙を利用できたのは、一部の先進国だけだった。気象観測、放送・通信事業、安全保障などの分野で国家が主導的に宇宙開発を担ってきた。

ところが、近年、世界的に見ると民間企業が宇宙開発で大きな役割を果たすようになってきている。背景として挙げられるのは、冷戦終結後の軍事予算の削減、そして新興国の成長だ。米国ではスペースX社やヴァージン・ギャラクティック社、ブルー・オリジン社といった宇宙ベンチャーが続々と登場し、ロケットの開発、衛星打ち上げなどのサービスに参入しつつある。

人工衛星についても、かつては放送・通信が中心だったが、地球観測を行う衛星の需要が急拡大している。地球観測衛星の用途は幅広く、地図作成から、資源探査、環境調査、農水産業の生産管理、国家安全保障目的(いわゆるスパイ衛星)まで、さまざまな分野で必要とされる。地球観測衛星市場は、過去5年間で年平均15%の伸びを示しており、2017年までには世界全体で34億ドルの市場になるとも予想されている。この成長を支えるのが新興国で、中国やインドはすでに自国製の衛星の運用を行っている。東南アジア諸国では、海外からの衛星調達を検討しており、将来的には衛星技術を自国で開発したいと考えている。

競争力が低かった日本の衛星

世界的な宇宙市場の拡大に対して、日本の取り組みはこれからだ。例えば、世界の衛星産業の市場規模は、1996年から2002年にかけて15%以上の成長を遂げた。ところが同じ時期の日本国内における宇宙機器産業の売上推移を見てみると、1996年の約3,800億円をピークとして減り続けており、現在は2,600億円程度にまで減少している。衛星をはじめとする日本の宇宙機器産業は90%以上が官需という状態がずっと続いており、政府からの発注がなければメーカーは売上が立たない。こうした傾向を強めたのは、1990年の日米衛星調達合意だ。この合意では非研究開発、つまり実用化された商用衛星などについては国際公開入札にすることになり、政府調達の衛星がほとんど米国製になってしまった。そして、JAXAは研究開発の側面を強く打ち出そうと、新規性をアピールできる衛星の開発に力を入れるようになる。その結果、科学研究の分野ではトップクラスであっても、海外では売ることのできない一品ものの衛星ばかりになっていった。メーカーも減少し、現在日本において人工衛星を造ることができるのは、NECと三菱電機の2社だけになっている。

こうした状況に対する危機感から、2008年5月には宇宙基本法が制定された。その趣旨は、従来の科学研究中心から、産業振興や外交、防衛にも宇宙を利用できるようにすること。内閣府には宇宙戦略室が設置され、ここが文部科学省、総務省、経済産業省の各省に対して勧告や調整を行う。従来、JAXAは文部科学省と総務省の管轄だったが、ここに経済産業省も加わって産業分野での開発を行いやすい体制を作った。

NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)では、宇宙基本法が成立する2007年から、産業分野で競争力のある人工衛星はどのようなものであるかについて検討を始めていた。そうして見えてきたのが、小型の地球観測衛星というコンセプトだ。

冒頭でも述べたように、新興国を中心として地球観測衛星市場は急拡大している。有名な地球観測衛星としては、Google Earthの撮影にも知られているジオアイ社のGeoEye-1があり、この光学センサーは分解能(見分けられる最小の距離)が41cmと非常に高精細だ。ただし、1機あたりの重量は約2トンで、価格も数百億円になる。一方、英国のSSTL社のRapidEyeは150kg程度と軽量で低価格、ただし分解能は6.5mとそれほど高くない。

衛星ビジネスでは、衛星本体だけでなく、打ち上げも含めたコストが重要だ。衛星が重いとロケットの打ち上げ能力も高くなければならず、全体のコストが膨らんでしまう。衛星本体が数十億円、打ち上げ費用が数十億円、これらを合わせて100億円以内に収められるようにしないと競争力に欠ける。

NEDOの先導調査ではメーカーなどへのヒアリングも元に、光学センサーの分解能が50cm以下、衛星重量が500kg程度、軌道高度500〜700kmという衛星の目標仕様を導き出した。そして、開発コストを抑えて、2年程度の短期間で製造ができるように、衛星の基本部分は共通にして、センサー部分は特定用途ごとに載せ替えられるようにする。

宇宙基本法の成立した2008年から、「先進的宇宙システム」(Advanced Satellite with New system ARchitecture for Observation)、ASNAROプロジェクトがNEDOの事業として開始され、最初の光学センサー搭載衛星の開発はNECが担当することになった(2010年に、事業はNEDOから経済産業省に移管された)。

NECが開発した「NEXTAR」の概要図の写真
[写真] NECが開発した「NEXTAR」の概要図。基本部はどの衛星でも共通で、用途に応じてミッション部を載せ替える構造になっている。これにより、短期間・低コストでの衛星開発が可能になる
(参考:NEC「宇宙への挑戦」(http://jpn.nec.com/ad/cosmos/)。

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