No.004 宇宙へ飛び立つ民間先端技術 ”民営化する宇宙開発”
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誰でも行ける宇宙へ

加速する民間宇宙開発

  • 2013.04.22
  • 文/大塚 実

宇宙は一部の「選ばれた人間」しか行くことができない世界である。そう、確かに今まではそうだった。宇宙に行くためには、激しい競争を勝ち抜き、国によって宇宙飛行士に選抜される必要があった。宇宙飛行士には高い能力が求められ、厳しい訓練も課せられる。決して誰もがなれるような "職業"ではない。だが現在、お金さえ出せば宇宙に行くことができる、いわゆる「宇宙旅行」が現実になりつつある。世界の民間宇宙開発はどうなっているのか、最新状況をまとめてみた。

宇宙空間も国から民間へ

一般に「宇宙」とは、高度100km以上の空間のことを指す。水平方向での100kmと言えば、東京駅から熱海駅くらいの距離でしかなく、東海道新幹線で1時間もかからないが、垂直方向の100kmとなると、近いようで意外と遠い。

旧ソ連のユーリ・ガガーリン少佐が人類として初めて宇宙に到達して以来、すでに50年以上が経過しているが、これまでに宇宙に行くことができたのは、わずかに530人ほどしかいない。エアバスの最新鋭旅客機「A380」ならば、たった1回のフライトでこの全員を運べてしまう。利用人数で言えば、飛行機とロケットでは比較にならない。

530人というのは、1年当たりにすると10人程度に過ぎない。これほどまでに人数が少ないのは、根本的に、宇宙に行くのにはお金がかかりすぎるからだ。宇宙船やロケットは、まず運用コストが高いし、開発するのにも巨額の投資が必要となる。これでは、民間が手を出しにくい。

そして、失敗は命に関わることから、無人機の場合に比べ、有人機にはより高いレベルの信頼性が求められる。非常時の脱出システム、生命維持のための装置、再突入時の高熱に耐える技術など、広範囲に高度な技術が必要となるため、これまで有人打ち上げに成功したのは、国家でも、旧ソ連、米国、中国の3カ国しかない。

宇宙が「国家のもの」であったのは、こうしたコスト的・技術的な理由が大きい。だが、これは逆に、民間の技術力が向上し、コストを下げることさえできれば、劇的に状況が変わる可能性があるということでもある。

1つの大きなマイルストーンになったのは、2004年、米スケールド・コンポジット社の宇宙船「SpaceShipOne」が、高度100km以上の弾道飛行に成功したことだ。民間開発の機体で有人宇宙飛行に成功したのは、これが世界で初めて。名誉ある第1号のパイロットは、米国人のマイク・メルビル氏であった。

SpaceShipOneの写真
[写真] SpaceShipOne
Credit:Scaled Composites

この宇宙船は空中発射システムを採用している。母船となる飛行機「White Knight」によって空港を離陸、上空まで運ばれたところで母船から分離され、そこでロケットエンジンに点火、高度100kmを目指す。宇宙から戻るときは、大気中をグライダーのように滑空して、飛行機のように空港に着陸することが可能だ。

飛行中のWhite Knightの写真
[写真] 飛行中のWhite Knight。中央にSpaceShipOneがぶら下がっている
Credit:Scaled Composites

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