No.004 宇宙へ飛び立つ民間先端技術 ”民営化する宇宙開発”
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バスモジュールとミッションモジュールを切り分けた「ASNARO」

ASNAROの要求仕様を受け、NECではどの衛星でも基本となる姿勢制御や電源などから構成される「バス部」の上に、光学センサーやレーダーなど用途ごとに異なる「ミッション部」を搭載する開発方式を採用した。これが「NEXTAR」である。NEXTARは、衛星姿勢制御用の推進剤込みで290kg以下、ミッション部は最大で200kgまで対応可能だ。

また、NEXTARでは、可能な限り標準化が図られている。
現在、ヨーロッパと日本が中心になって、「SpaceWire」という規格の策定が進んでいるが、NEXTARはこれに準拠している。SpaceWireは衛星内の標準ネットワーク規格である。パソコンの周辺機器を接続する規格としてUSBがあるが、SpaceWireは、その人工衛星版といえるだろう。

従来の衛星開発では、地上から受ける命令の処理や姿勢制御、観測データの処理などをそれぞれ別々のコンピューターで行っていた。これに対して、NEXTARではコンピューターの仕様を標準化し、「Space Cube2」*1という汎用コンピューター3台で実現している。こうすることで、異なる仕様のコンピューターを使うよりも格段に低コスト化・省スペース化できるのだ。

また、ASNAROのミッションモジュール(光学センサー)では、軽量化を行うために、ミラーやメモリ等々で細かな工夫がなされている。例えば、望遠鏡に使われるミラーには一般的にはガラスが使われるが、ASNAROでは高強度反応焼結SiC(炭化ケイ素)という新素材を採用。高強度反応焼結SiCは、ガラスよりも軽量かつ高強度で、ひずみも少ない。データを保存するメモリについては、従来のSDRAMからフラッシュメモリに変更している。SDRAMは高速にデータを読み書きできる反面、電源が必要だ。これに対して、フラッシュメモリは読み書き回数に制限はあるが、電源を切ってもデータが消えない、低消費電力で発熱も少ないというメリットがある。

1号機であるASNARO-1にはミッション部として高分解能光学センサーが搭載されているが、現在その他のミッション部も開発が進められている。2号機のASNARO-2に搭載されるのが、合成開口レーダー(SAR : Synthetic Aperture Radar)である。これは地表に向かってマイクロ波を照射して観測を行うもので、地表の起伏を調べることができる、光学センサーとは異なり雲や雨に影響されない、水がたまっている箇所を判別できる、といった特徴を備えている。

このほかのミッションモジュールとしては、50kmの幅を一度に観測できる広域光学センサー(ASNARO-1の光学センサーは10km幅)や、赤外線センサー、ハイパースペクトルセンサーがある。ハイパースペクトルセンサーは、可視光から短波長の赤外線までを観測できるセンサー。植物の葉や実は含まれるタンパク質の種類や量によって光の反射が違ってくるため、ハイパースペクトルセンサーを使うことで、農作物の収穫時期の判断を行うこともできるという。

こうした多種多様なセンサーを1つの衛星にすべて積み込むのではなく、別々の小型衛星(それぞれの衛星を運用する国が異なることもある)に搭載する。そして、それぞれの衛星が同じ、あるいは近い軌道を回るようにして、複数の衛星を協調して動作させる。これをコンステレーション(constellation:星座という意味)といい、衛星ビジネスにおいてはトレンドになっている。

ASNARO-1のフライトイメージ写真
[写真] ASNARO-1のフライトイメージ。2013年度の打ち上げを予定している。

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