No.004 宇宙へ飛び立つ民間先端技術 ”民営化する宇宙開発”
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数十cm角の超小型衛星の開発も進む

ASNAROよりもさらに小さな超小型衛星についても、大学を中心として開発が進められている。中でも、スタンフォード大学などが開発・規格化したキューブサットは、10cm角の立方体がベースで、重量もわずか1〜数kg程度。2003年6月には世界初のキューブサットとして、東京大学の「XI-IV」と東京工業大学の「CUTE-I」、スタンフォード大学の「QuakeSat」が同時に打ち上げられており、それ以降も世界中の研究機関が多数のキューブサットを投入している。2012年10月には、国際宇宙ステーション(ISS)の実験モジュール「きぼう」から、5機のキューブサットが放出された。

こうした超小型衛星では、高価な宇宙用部品の代わりに地上用の部品を多く使い、開発コストを抑えている。半導体技術の進歩に伴い、部品のモジュール化が進み、現在では大学の学部生レベルでも人工衛星の開発に取り組めるようになった。その最たるものが「Arduino」を使った「ArduSat」だろう。Arduinoというのはオープンソースのハードウェアであり、これを利用したさまざまなデバイスが世に送り出されている。ArduSatは、Arduinoを使って人工衛星を開発しようという試みだ。ArduSatの開発チームが、開発と打ち上げのための資金を一般から募ったところ、あっという間に10万ドル以上を集めることができた。

従来の超小型衛星は基本的に研究目的だったが、ビジネスとして本格的に展開しようという動きも出てきた。その筆頭がベンチャー企業のアクセルスペースによる「WNISAT-1」だ。27cm角の立方体で、重量は約10kg。光学カメラと近赤外線カメラ、そしてレーザーモジュールを搭載しており、天気予報サービスを提供するウェザーニューズが北極海航路における海氷の状況を調べるために使われる。打ち上げは2013年の予定だ。

また、東京大学とアクセルスペースなどは、内閣府のFIRSTプログラムによる資金を得て「ほどよしプロジェクト」を進めており、全部で4基の衛星を開発して打ち上げることになっている。すでに完成している「ほどよし1号」は一辺60cm、重量60kgの地球観測衛星で、分解能6.7mの光学カメラを備える。これに続く、ほどよし2号は世界中からミッションを募集し、多数のセンサーを相乗りさせている。3号、4号では衛星内のスペースを有料で顧客に貸し出すビジネスモデルの試行を行う。

現在のところ、超小型衛星に搭載できるセンサーは数百kg〜数トンクラスの衛星に比べてまだ性能が低く、同じ市場で競争できるわけではない。しかし、半導体技術、光学技術の進歩はめざましく、さらには先述したように複数の衛星を協調させるコンステレーションの技術も開発されている。

数十kgのクラスの超小型衛星が現在の小型衛星と同等の性能を実現できるようになれば、中小企業もプレイヤーとしてビジネスに参加できる。そうなれば、本当の意味で衛星ビジネスが開花することになるだろう。その時期は、もうそこまで近づいているのかもしれない。

左:WNISAT-1、右:ほどよし1号機の写真
[写真] 左:WNISAT-1の重量は約10kg。可視光と近赤外線に対応した光学カメラを搭載している。
右:ほどよし1号機は一辺50cmの立方体形状をしており、重量は約60kg。過酸化水素水を推進剤とした推進装置で軌道制御も可能だ。

[ 注釈 ]

*1
Space Cubeは、独立行政法人宇宙航空研究開発機構とシマフジ電機株式会社の共同登録商標。

Writer

山路 達也

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーのライター/エディターとして独立。IT、科学、環境分野で精力的に取材・執筆活動を行っている。
著書に『Googleの72時間』(共著)、『新しい超伝導入門』、『インクジェット時代がきた』(共著)、『日本発!世界を変えるエコ技術』、『弾言』(共著)など。
Twitterアカウントは@Tats_y

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