No.004 宇宙へ飛び立つ民間先端技術 ”民営化する宇宙開発”
Topics
理論

系外惑星の発見で、
地球外生命への期待が高まってきた

人々に夢を与えたSETIだったが、1970年代から90年代にかけてSETIに対する批判は増えていった。貴重な予算を費やしているにもかかわらず、知性体からの信号はまったく見つからない。そもそも太陽系以外の恒星系に惑星は存在するのだろうか、そんな疑問の声も強くなっていった。

SETIに対する逆風の代表例が、1992年に米国政府の資金で進められていたMOP(Microwave Observing Program)計画の中止だ。MOPは太陽系に比較的近い恒星約800個を長期間にわたって観測するというもの。しかし、米国議会の反対により、プロジェクト開始からわずか1年で中止になってしまった。ジル・ターター博士らは民間から資金を集めて、NPOのSETI研究所を設立。1995年にMOPをPHOENIX計画として再開している(PHOENIX計画は2004年まで続けられた)。

その後もSETIの資金は潤沢といえない状況が続いている。SETI研究所は42台の電波望遠鏡を並べて全天観測を行う、アレン・テレスコープ・アレイ(ATA)の運用を2007年に開始しているが、2011年には資金不足で運用を一旦停止。一般に寄付を呼びかけて資金を集めて同年に何とか運用を再開した。

資金不足に悩まされているSETIだが、それが逆に研究者の創意工夫を刺激し、ユニークな手法を発展させた面もある。SETIでは受信した電波を解析するために強力なコンピュータが不可欠だが、お金がないと自由に計算処理を行えない。そこで、カリフォルニア大学バークレー校の研究者達が始めたのが、SETI@homeというプロジェクトだ。SETI@homeは、1台の強力なコンピュータの代わりに、インターネットで結ばれた多数のコンピュータで演算処理を分散して行うという考え方である。プロジェクトが開始された1999年から2005年までに、のべ500万人のユーザーが参加。スクリーンセーバーをパソコンやゲーム機で走らせるだけという手軽さもあって人気を博した。地球外知的生命体からの信号は見つからなかったものの、SETI@homeによって分散コンピューティングが実用的に使えることがわかり、より汎用的なソフトウェアのBOINCが開発されることになった。現在、BOINICはSETI@homeのほか、タンパク質の構造解析を行うFolding@homeなどのプロジェクトに利用されている。

アレン・テレスコープ・アレイ(ATA)の写真
[写真] アレン・テレスコープ・アレイ(ATA)は、最終的に350基の電波望遠鏡で構成される予定である。
SETI@Homeの図
[図表1] SETI@Homeは、膨大な観測データの中から、知性体からの信号を抽出しようとした。

現在までのところ地球外知的生命体からの信号はまったく見つかっていないが、地球外生命研究への風向きは変化しつつある。その転機となったのは1995年10月。ジュネーブ天文台のミシェル・マイヨール博士とディディエル・クエロッツ博士が、ペガスス座51番星という恒星の周りを回っている惑星を発見したのである。これは木星のような巨大なガス惑星で、恒星の自転に影響を与えていたため、観測することができた。

また、地球のように岩石や金属でできている惑星は、ガスを主体とする木星型の惑星に比べて質量が小さいため発見できないと考えられていたが、それも2005年に覆される。地球から15光年離れた恒星グリーゼ876の周囲を、地球の6~7倍程度の質量を持った惑星が回っていることが発見されたのだ。その後も地球の数倍程度の質量を持っている惑星(スーパーアースと言われる)の発見が相次ぎ、質量が地球の半分程度の惑星(地球から126.2光年離れた恒星ケプラー42を回っている)も見つかっている。

系外惑星の発見は天文学のホットトピックになっているが、これは2009年にNASAが打ち上げたケプラー探査機によるところが大きい。ケプラー探査機は系外惑星の探査がメインミッションとしており、直径140センチの反射鏡と9460万画素のCCDカメラを搭載する。惑星が恒星の前を横切ると恒星の見かけの明るさが変化するが、ケプラーはこの光度変化を精密に測定することで系外惑星の候補を見つけ出す。NASAによれば、2013年1月までに3000弱の系外惑星候補が見つかっているという。中でも、地球から600光年離れた恒星ケプラー22を回る惑星ケプラー22bは、地球型でかつハビタブルゾーン(恒星からの距離など、地球型生命に適した条件を満たしている領域)にあると考えられており、SETI研究者の注目を集めている。

1995年に設立されたPLANET(Probing Lensing Anomalies NETwork)というプロジェクトチームは、南半球にある5つの望遠鏡を使って、2005年から6年間で数百万個の恒星を調査した。この調査では、重力レンズ効果(恒星からの光が途中にある天体の重力によって曲げられ、複数の像に見える現象)という手法を用いている。PLANETによると、地球から50光年以内に1500個以上の惑星が存在する可能性があり、私たちの属する天の川銀河全域では100億の地球型惑星が存在するかもしれないという。

系外惑星を探索するケプラー探査機の写真
[写真] 系外惑星を探索するケプラー探査機。

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.