No.004 宇宙へ飛び立つ民間先端技術 ”民営化する宇宙開発”
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理論

太陽系内で生命を探査する

地球外「知的」生命の存在(あるいは存在したとしてもコンタクトできるかどうか)についてはまだ懐疑的な声が多いが、地球外生命の存在自体については肯定的にとらえる科学者が増えている。

火星における生命の探査も、NASAが中心となって大規模なプロジェクトが継続的に行われている。1975年、火星に初めて着陸した探査機バイキング1号、2号は、二酸化炭素の検出などの実験を行い、火星に生命は存在と結論づけた。しかし、当時の技術は精度が低かったこともあり、その実験結果に疑問を抱く科学者も少なくなかった。

2004年には、スピリットとオポチュニティという2台の探査車が火星に送り込まれ、火星に水が存在するのかどうか調査を実施。調査結果から、かつて火星には海が存在したことを明らかにした。

そして、2012年に着陸して現在活動中の探査車がキュリオシティである。キュリオシティのメインミッションは、生命と関わりの深い有機物の探索だ。有機物を検出できれば、生命が存在する/した可能性は高まる。そこで、キュリオシティにはSAMとChemCamという観測装置が搭載されている。SAMは「火星サンプル分析装置」(Sample Analysis at Mars)を意味し、スコップで採取した試料を数百度に加熱してガス化して、有機物の種類や量を測る。一方のChemCamは化学分析カメラで、こちらは試料にレーザーを照射して、発生する光の波長を調べる。これによって、試料にどのような鉱物が含まれているのかがわかるという。

火星の地表で、生命の構成要素である有機物を探査する「キュリオシティ」の写真
[写真] 火星の地表で、生命の構成要素である有機物を探査する「キュリオシティ」。

キュリオシティが着陸したのはゲール・クレーターという直径154キロメートルのクレーターだ。2013年秋に、キュリオシティはこのクレーターの中央にあるシャープ山に向かい、その山麓にある堆積層を調査する予定である。過去の地層を調べるために本来なら地面を深く掘らなければならないが、シャープ山の山麓は風化作用によって過去の地層が表面に出ており、ここを調査すれば過去の生命由来の有機物が見つかるのではないかと期待されている。2020年にもNASAは火星探査車を送り込んで生命探査を行う予定だ。

日本でも、火星における生命探査プロジェクトの準備が進められている。東京薬科大学の山岸明彦教授が代表を務めるJAMP(Japan Astrobiology Mars Project)計画では2020年頃に探査機を送り込むことを目標にしている。この計画は蛍光顕微鏡(蛍光を発する試料を観察するための顕微鏡)を用いるのが特徴だ。蛍光顕微鏡は非常に感度が高く、試料を蛍光色素で染色できれば原理的には1つの細胞でも検出できる。JAMPでは、どのような細胞であっても検出できるよう、用いる蛍光色素の検討を進めている。

JAMPが探査対象の1つとしているのが、メタン酸化菌だ。2009年にはNASAなどの研究チームが火星の大気からメタンを検出したという発表を行っており(ただしキュリオシティの観測装置はまだメタンを検出していない)、このメタンが生物由来ではないかと考えている科学者もいる。しかし、メタンを作るメタン菌は地下深くにいるため、地表を調査して見つけるのは難しい。

そこで、JAMP計画ではメタン菌ではなく、メタン酸化菌に注目する。これはメタンと酸化鉄などをエネルギー源として利用する微生物で、地球上ではすでに発見されている。メタン酸化菌はメタンと酸化鉄があれば酸素がない条件でも生きることができ、酸化鉄が多い火星の地表付近は有望な生息候補地なのだ。火星では液体の水が流出したと思われる場所も見つかっており、JAMPではこうした条件を考慮して、探査場所の選定を行う予定だ。研究チームは、蛍光色素を使ってアミノ酸を検出し、微生物を顕微鏡で直接観察することを目指す。

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