No.004 宇宙へ飛び立つ民間先端技術 ”民営化する宇宙開発”
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理論

火星以外では、土星や木星の衛星にも注目が集まっている。

NASAの探査機カッシーニの調査により、土星の衛星エンケラドゥスは活発な地質活動をしていることが判明。有機物を含む氷の粒子が地表のひび割れから噴出している可能性、さらには地下に広大な海がある可能性も指摘されている。同じく土星の衛星タイタンの表面には湖があることが確認されており、たまっている液体はメタンかエタンらしい。木星の衛星エウロパは氷で覆われているが、やはり氷の下に海があると推測されている。

生命の存在が期待されている土星の衛星「エンケラドゥス」の写真
[写真] 生命の存在が期待されている土星の衛星「エンケラドゥス」。

木星や土星は太陽からはるか遠く離れた位置にあるため、それらの衛星も極寒の地であるとかつては思われてきた。しかし、最近の研究では、木星や土星の重力によって衛星にひずみが起こり、これが活発な地質活動を引き起こしているため、衛星の内部は意外に温暖であると考える科学者も多い。温暖といってもマイナス数十度といったレベルで、液体の海は水ではなくメタンやアンモニアである可能性が高いわけだが、それでも生命がいるかもしれないと期待されているのは、近年の生物学や地質学などによる知見があるからだ。先述のメタン酸化菌や、太陽光の届かない深海の熱水噴出孔周辺に生息する生物群など、これまでの生物学の常識を一変させる発見が相次いでいる。また氷河や氷床の研究によって、氷の下にも生命に適した環境があることがわかってきた。バクテリアのような地球外生命であれば、そう遠くない未来に見つかるかもしれない。

とはいっても、地球外生命を探す試みは、直接何らかの利益を人類にもたらすわけではない。バクテリアが地球外で見つかったからといってそれが何だと思う人もいることだろう。

16世紀に望遠鏡で夜空を見上げた人々は、何か役立てようと考えていたわけではあるまい。しかし、より遠くを見たいという欲求は光学技術を発展させたし、地動説という世界観の変革へとつながっていった。

地球外生命の探索でも同じようなことが起こっている。宇宙に生命を求める研究者のモティベーションがさまざまな発見や発明をうながし、先に挙げたように生物や地学、ITなどさまざまな分野に影響を与えているのだ。

地球外生命を見つけた時、それがどんな風に人々の世界観を変えていくかはまだわからない。劇的な変化がすぐ起きるというわけではないかもしれない。だが、一度地動説を知った人々が天動説の時代には戻れないように、私たちも新しい時代へと踏み出すことになるのだろう。

Writer

山路 達也

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーのライター/エディターとして独立。IT、科学、環境分野で精力的に取材・執筆活動を行っている。
著書に『インクジェット時代がきた』(共著)、『日本発!世界を変えるエコ技術』、『弾言』(共著)など。
Twitterアカウントは、@Tats_y

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