No.004 宇宙へ飛び立つ民間先端技術 ”民営化する宇宙開発”
Cross Talk

宇宙ホテルの開業は
意外と近いかもしれない。

中須賀 ── 宇宙飛行士になりたいと思ったのは、チャレンジャー事故*5がきっかけと聞いています。

山崎 ── そうです。小さい時に『宇宙戦艦ヤマト』に憧れた世代なので、とにかく宇宙には広いロマンがあると思っていたんですね。

遅まきながら中学3年のとき、テレビ報道で初めてスペースシャトルの打ち上げを見ました。それがたまたまチャレンジャーが爆発したときだったんですが。本当に宇宙船が打ち上がっているんだ、宇宙飛行士はいるんだ、という印象が強く残ったんです。

中須賀 ── 亡くなった人の中に、先生がいたんですよね。

山崎 ── マコーリフ*6さんという女性の先生で、初めて民間人としてスペースシャトルに乗り込んだ人でした。彼女は宇宙から授業をしようとしていたんですね。私も学校の先生に憧れていたので、宇宙で授業をやるっていいなと思ったんです。

日本で宇宙飛行士にどうしたらなれるか見当もつかなかったので、まず宇宙船を作ろうと思ったんです。それで当時、中須賀先生が助手をしていらした宇宙工学の田辺先生の研究室に入りました。

中須賀 ── 僕は当時、新米の先生でしたね。修士や博士の学生のとき、実は宇宙の研究があまり面白くないと感じてしまったんです。自分が研究したものが宇宙に行くのは20年、30年先という世界ですからね。それで、人工知能を研究していたんですよ。IBMに入って同じ研究を続けていたのですが、田辺先生に呼ばれて大学に戻ったのが1990年です。

その頃に考えていたのは、惑星にローバーを送り込んで動き回るものとか、宇宙に「ガソリンスタンド」を置いてロケットが給油しながらものを運んでいくという、壮大な構想でした。

山崎 ── それもだんだん現実になっていますね。国際宇宙ステーションで燃料輸送の実験をアメリカが行おうとしていますから。

中須賀 ── 基礎要素技術ができつつありますね。宇宙で燃料を貯蔵する場合には、貯蔵可能な冷却燃料*7を作るのが難しいんです。実は今、LNG推進が良かったりすることが分かってきました。

地道にこうしたインフラを作っていたら、宇宙開発の現在は違っていたんじゃないかといつも思います。いきなり早い段階で遠くまで行かなくても、地球周りからインフラを作ることが大事です。

山崎 ── まず何かしらの拠点があって、その後にどんどん先へ進んでいく方が、ロジスティクス的には圧倒的に有利ですから。

中須賀 ── そう言えば、山崎さんの卒業論文が「オービタル・トランスファー・ビークル」(軌道間輸送機:OTV)でしたよね。軌道と軌道の間、地球から月まで運ぶ荷物運びのトラックがテーマで。

山崎 ── はい。研究室がテーマにしていた軌道上のOTVネットワーク*8で、軌道間輸送機や燃料ステーションをどう最適化して配置していくかという研究でした。

学部を卒業するときは、卒業論文に加えて、具体的な設計をもう1つしないといけないんですよね。人工衛星が課題でしたが、やっぱり人が宇宙に行きたいなと「宇宙ホテル」の設計図を書いたんですね。大きな人工衛星だからいいでしょう?って(笑)。田辺先生は新しいことを否定しないで「面白そうだね」と言ってくださったから、助かりました。

中須賀 ── その後、何人かやった人はいるけど、宇宙ホテルをやったのは一番最初でした。熱を逃がすのに苦労したんですよね。

山崎 ── ええ、放熱の熱の収支をとるのが大変でした。人工重力を発生させて客室を作りましたけれど、シャワーは付けなかったですね。

中須賀 ── シャワーと言えば、風呂に入らない研究生もあの頃一杯いたでしょう。よくソファに寝ていたから(笑)。

山崎 ── 懐かしいですね(笑)。私は昼に帰って、また夜に出てきました。当時は家にパソコンが普及してないですし、しかもUNIX*9だと研究室にしかないんです。だから、昼夜でシフトを組んでましたね。

中須賀 ── ホテルの実用化は意外と早いと思いますよ。地球周回軌道上だったら、すぐできるんじゃないかな。

山崎 ── アメリカの「ビゲロー・エアロスペース社」*10というベンチャー企業で、宇宙ホテルの開業を目指しているラスベガスのホテル王がいるんです。もう試験機を2機、打ち上げています。

中須賀 ── 問題は輸送と、日本だと国の認可になるのかな。でも、そもそも認可を取らなきゃいけないのだろうか、という疑問はあります。

日本では死亡事故が起こると、国から主催者側が罰せられます。例えば、アメリカでは行く人が自分のリスクで「これは実験だからどんなことが起こってもいい」という一筆を書いてやるのは効力があるらしいんですが、日本だとそれは全然効力がない。完全に許認可制なので、個人がいくら言ってもダメ。騙されて一筆書く人もいるかもしれないですから、それによって個人を守っているわけなんですが。

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