ローバーは1kgから10kgまで対応可能に
──相乗り先が決まらないと、ローバーの大きさや重さが決まらないのでは。
そこが大きな問題です。それもあって、現在、ローバーはいくつかのバージョンを考えています。相手との交渉で、仮に10kgまで乗せられるということになれば、ムーンレイカーを発展させればいいのですが、当然ながら、もっと小さくて軽くないと乗せられないよ、と言われる可能性もあります。
ですが、小さくしようと思えば、小さいなりのやり方があるんです。私は、1〜2kgのローバーも実現できると思っています。私の研究室では現在、小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載される「ミネルバ2」の開発も平行して進めていますが、これは1kgに満たない小惑星用ローバーです。これまでそういうチャレンジをしてきた経験がありますし、日本には実現できるだけの技術があります。
また超小型衛星の打ち上げは、基本的に大きな衛星への相乗りです。私はある意味、相乗りには慣れているのですが、これまでの相乗り経験からすると、あと2年半というのは、まだ間に合う範囲です。ただ、さすがに今年中にはランダー側とのインターフェイスを決めるなど、設計を固めることができないと、さすがに間に合わなくなります。今から年末までが、多分正念場ですね。
──もし1kgと言われたら、どんなローバーになるのですか?
我々は2002年から、米国のある学生向けコンペティションに参加していて、砂漠で2輪型のローバーを走らせています。基本的には、これを宇宙用に作ればいいと考えています。日本の伝統的なおもちゃで「糸車」がありますが、我々の2輪型ローバーは、まさにこのスタイルです。車輪だけでは、本体がクルクル回ってしまいますので、中央に安定させるための尻尾が付いています。
このコンペで走らせていた2輪ローバーがちょうど1kgだったんですが、車輪を大きくすることで、2kgでも5kgでもスケーラブルに対応することができます。ムーンレイカーをあれ以上、小型軽量に作るのは難しいので、10kgなら4輪型、それ以下なら2輪型で行こうと考えています。
──相乗りだと、10kgというのはもう難しいのでは。
いえ、現時点では10kgという線も否定していません。現に、これまでの交渉では、10kgのローバーを乗せられるだけのキャパシティがある相手もいました。
ただ、決め手になりそうなのは費用ですね。当然、タダで乗せてくれるわけではないので、お金を払うことになります。相乗り料はチームによっても異なりますが、大体1kgあたり300万ドル(3億円)程度が相場のようです。10kgだと、もしかするとディスカウントしてくれるかもしれませんが、これだとムーンレイカーでは、相乗り料だけで30億円もかかる計算になります。
ざっと費用を見積もると、10kgローバーの場合、開発費は10億円くらいになるので、総額は40億円程度。一方、1kgローバーの場合は、もっと安く作れますので、総額10億円以内で実現できるはずです。結局は、WLSにどれだけのスポンサーが付いてくれて、資金をいくら集められるか、という部分が大きいですね。
──資金はどうやって集める計画でしょうか。
2つの方法を考えています。
1つは、広く浅く集める方法です。2輪ローバーのプロトタイプを開発するために、今流行のクラウドファンディングを活用したんですが、278名の方から、目標額の200万円を超える資金を提供してもらえました。まずは第一歩ですが、資金集めに成功したことで、注目していただけるようになりました。より大きな規模へ進んで行くための、足がかりができたと考えています。
もう1つは、企業スポンサーの獲得です。具体的にはまだ公表できませんが、すでに何社かと話はしていて、反応は徐々に良くなってきています。数年前には、そういう話をしてもなかなか聞いてもらえませんでしたが、メディアで紹介されることが増えたおかげか、最近は雰囲気がだいぶ変わってきました。
10億円オーダーの資金が必要になるので、集めるのはとても大変ですが、テレビのコマーシャルや新聞の全面広告にかかる費用と比べれば、この金額は、決して常識外れな規模ではありません。WLSには様々なメンバーが集まっていて、中には代理店に勤務している人もいます。我々のやろうとしていることに共感してくれる企業があれば、十分達成できると思います。