No.004 宇宙へ飛び立つ民間先端技術 ”民営化する宇宙開発”
Scientist Interview

目指すのは月面一番乗り、実現の可能性は?

──競争である以上、WLSにはぜひ一番になって欲しいです。

はい。ですので、「一番乗りできそうなところに相乗りをする」というのが我々の基本戦略です。相乗り先と、どちらが一番になるか決めておく必要はありますが、それは交渉次第でしょう。一番乗りできる可能性は十分にあると思います。

それに、我々がローバーを提供する相手は、1チームだけとは限りません。2台開発する予算があれば、の話になりますが、例えばチームAに対しては1kgローバーを提供して、チームBに対しては10kgローバーを提供する、ということも有り得ます。

我々が目指すべきは「テクノロジープロバイダ」だと思うんです。JAXAでもNASAでも民間企業でも、この先の宇宙開発の中でローバーの技術を必要とされれば、いつでも提供できるような組織・集団になりたい。そのための最初の一歩として、私はGLXPを位置付けています。

──ただ、日本は国として、月探査に積極的ではありませんね。

2010年に国の「月探査に関する懇談会」がまとめた報告書には「2020年までに無人探査を実施する」と書かれていたのに、今年1月に策定された新しい「宇宙基本計画」にはそういった記述は無くなり、かなり後退した印象があります。

「月探査に関する懇談会」がまとめた報告書の写真
[写真] 「月探査に関する懇談会」がまとめた報告書では、月探査にかなり前向きな結論になっていたが…。

ですが、人類の将来とか、科学的な価値とか、いろいろ考えると、月の可能性は非常に大きいと私は見ています。GLXPのような賞金レースがきっかけになり、民間が月探査を牽引して、もっと大きな規模になってきたら、JAXAなど国の宇宙機関が国際協調で動き出す——そんなシナリオが描ければいいですし、もし本当にそうなったら、GLXPの価値はものすごく高いものになると思います。

──民間のスピード感に期待しています。

国のプロジェクトとしてやろうとすると、国民の税金を使うことになりますので、どうしても国民からどのくらい支持されているのか、という話になってしまいます。100%支持されるのがベストですが、特に宇宙の場合は、必ず一定の割合から「そんな無駄なことに予算を使うな」と言われてしまって、なかなか動き出せません。

ところが民間ならば、誰かが「やるぞ」と手を挙げて、それに賛同する人々が集まって、そこで成立する話になればいい。こういった話は、民間の方が動きやすいですね。最近はスペースXが開発した宇宙船「Dragon」が国際宇宙ステーションへの物資の輸送を担うなど、NASAも国の予算だけで全てやるのではなく、民間の活力をどんどん利用する方向に舵を切っています。

国のプロジェクトは規模が大きく、時間もお金もかかります。するとどうしても「絶対に失敗できない」プロジェクトになり、石橋を叩いて渡るようなことしかできなくなってしまいます。やはりそこは国と民間の違いでもあると思うんですが、我々はとにかく失敗を恐れずに、短いサイクルでチャレンジする。1回失敗しても次のチャンスがすぐに来る、むしろ失敗した方が経験値が増えるんだと、そういうムードを作っていきたいですね。

──WLSは唯一の日本チームです。最後に「日本代表」としての意気込みを。

日本には、優れたロボット技術、小型化技術があります。我々は宇宙ロボットの分野で、常に世界と互角の研究をしてきた自負もあります。相乗りという形にはなりますが、日本の技術力を世界に示し、勝つチャンスは十分あると思います。宇宙を舞台に、世界一を競うレース。この中に日本の旗があると、皆さんを元気づけることにもなるでしょう。応援やご協力をぜひお願いします。

Profile

吉田 和哉(よしだ かずや)

昭和35年生まれ。昭和61年東京工業大学大学院理工学科機械物理工学専攻修士課程を修了。昭和61年より同大学助手。平成2年工学博士取得。平成6年米国マサチューセッツ工科大学客員研究員。平成7年東北大学助教授。平成15年より東北大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻教授。大学院生時代に宇宙ロボットの運動制御の研究を開始し、以来、宇宙探査ロボットの研究開発に従事。「おりひめ・ひこぼし」の軌道上実験、「はやぶさ」の開発などに参加。最近では、大学で作る超小型衛星「雷神」「雷神2」「雷鼓」等のプロジェクトを指導し、原発事故対応ロボット「クインス」の開発にも参加した。フランスに本部を置く国際宇宙大学での国際教育活動にも携わる。

Writer

大塚 実

PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は『人工衛星の"なぜ"を科学する』(アーク出版)、『小惑星探査機「はやぶさ」の超技術』(講談社ブルーバックス)、『宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1』『宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2』『技術を育む 人を育てる 日本の宇宙産業Vol.3』(日経BPコンサルティング)など。宇宙作家クラブに所属。
Twitterアカウントは@ots_min

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