No.025 特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

No.025

特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

Cross Talkクロストーク

プロでもメンタル管理は手つかずの状態

── ゴルフのプロ選手は、普段、どのようなメンタルトレーニングをしているのでしょうか。

植村 ── 先ほど、ゴルフではメンタル面が、とても重要だと話しましたが、実際には、メンタル面での管理・調整から目を背けている選手がほとんどです。

ゴルフの試合で、構えてから打つまでに要する時間は、ほんの1秒余り。一日ラウンドすれば、プロならおよそ72回打つわけですが、実際に打っている総時間は70秒ぐらいにすぎません。ところが、スタートしてからホールアウトするまでには4、5時間かかります。打っていない時間は何をしているかというと、歩きながら考えたり、他の選手が打っているのを見ていたりします。この間は、心が揺れ動く時間だとも言えます。ですから、試合中のメンタル管理は、とても重要なはずなのです。しかし、どうしてもプロは、より多くの球を打って練習したり、筋力トレーニングを積んだりといった目に見えるトレーニングを信じがちで、目に見えないメンタルトレーニングには手が出ていません。

このような状況ですから、メンタル面での動きを目に見える形にしてくれるツールがあれば、考え方が変わり、メンタル面での管理や調整に目を向けるキッカケになる可能性が高いのではないでしょうか。

── 多くの選手がメンタル面の重要性を感じていながら、実際には、そこに取り組んでいない状況にあるということは、ツアープロコーチとしてはビジネスチャンスなのかもしれませんね。

植村 ── そうですね。いいショットを打っているような調子のいい選手でも、打つべき方向に池やバンカーなどがあると、入れないように意識してミスが出やすいものです。これは、急に調子が悪くなったわけではなく、ただ単に池を見て心に迷いが生じた結果だと思います。しかも、一度そうしたミスがあるとそこからスコアを崩したりするため、メンタル面からのミスはやっかいです。コーチとしては、こうした全体の流れを変えてしまうミスをぜひなくしたいところです。

「元気です」と言いながら、そうは感じない、そんな時こそ要注意

K's Island Golf Academy

── 植村さんは、選手のメンタル状態を、どのようなところに注目して判断しているのでしょうか。

植村 ── 選手のメンタル状態は、表情、態度、発する言葉の内容から判断しています。メンタルが強い人は、発言する言葉からして違うように感じています。逆に弱い人とか、弱っている状態の人からは、「何で、そんな弱気で、悲観的なことを言うのだろう」と思えるような発言を聞くことが多いように思います。ただ、繕うことができないと下地さんが話していた声のトーンや大きさなどからは、「なんとなく自信がなさそうだな」と察することくらいしかできていませんね。

下地 ── 他人の感情を人が理解しようとする際、必ずしも音声だけで判断しているわけではありません。表情や振る舞いといった視覚から入ってくる情報を基に判断している度合いが、より高いようです。このため、植村さんが判断する際の観察は理解できます。

ただし、心理学的には、言葉では「めちゃくちゃ元気です」と言っていながら、実際には精神的に参っている時の方が、要注意状態なのだそうです。精神科の医師は、患者の言葉の内容と見た目や声の発し方に大きなズレを感じるところに注目し、そこから深堀りして心の様子を探っていくそうです。音声を基にした感情の解析は、それだけで人の感情のすべてを解明できるわけではなくて、理解の糸口となるヒントが得られる点に価値があると考えています。また、直接合って会話できる場面ばかりではないので、そうした際に会話の内容と口調の差異を客観的に知るためのツールとしても利用できます。

植村 ── 確かに、「私は大丈夫です」とポジティブなことを言いながら、見るからにメンタル的に不安定そうな選手はいますね。試合中の選手は、スコアが悪くなっていったら「ヤバイ、ダメかも。このスコアだと予選落ちしそう。あと何ホールで何とかしないと」などと思って気分が下がるわけです。しかし、選手によっては、「まだ残りがあるから、バーディー、バーディーで行くぞ」と、気分は下がっていても、言葉で奮い立たせるような場面があると思うのです。そうした場面で、表情や言葉の内容、声のトーンなどで今の本当の気持ちやメンタル状態が分かれば、的確なアドバイスができるかもしれません。本当の状態を側にいる人が把握したり、本人が自覚したりすることで、いい状態に持っていくことが大事だと思うのです。

下地 ── ただし、メンタルをいい状態に持っていく方法論を見つけるためには、私たちが持っているツールだけでは足りない部分があると思います。Empathは、感情の状態を数字で示すことができるだけで、それ自体で心を整えるためのアドバイスをしてくれるわけではありません。例えば、コールセンターなどには、オペレーターの管理者として、スーパーバイザーと呼ばれる立場の人がいます。顧客とオペレーターの両方の会話を聞いており、円滑なやり取りが困難になった時にサポートする役割を担っています。Empathは、顧客とオペレーターの会話の様子から感情の動きを察知して、助けが必要になる状態になったことを自動的に察知するために使うことができると考えています。利用する際には、ツールからの警告を受けて、解決策を考え、対策を実施する人が必ず必要です。

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