No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

スマートコミュニティの未来

クロストーク ”テクノロジーの未来を紐解くスペシャルセッション”

スマートコミュニティの未来

鈴木 悌介
鈴廣かまぼこ株式会社 
代表取締役副社長
東 博暢
株式会社日本総合研究所 
プリンシパル

東日本大震災は、エネルギーに関する大きな疑問を突きつけた。資源に恵まれない日本が、これまでずっと頼りにしてきた原子力発電に、これからも頼り続けるべきなのか。この疑問を出発点として、まず自社のエネルギー環境を変え、さらには地域での活動に踏み出したのが、鈴廣かまぼこ株式会社で副社長を務める鈴木悌介氏である。小田原箱根商工会議所会頭も務め、エネルギーの地産地消システム普及に取り組む鈴木氏を、株式会社日本総合研究所主席研究員で次世代都市開発研究に携わる東博暢氏が訪ね、エネルギーを軸とした、これからのまちづくりのあり方について議論を交わした。

(構成・文/竹林篤実 写真/黒滝千里(アマナ))

エネルギーを創る・運ぶ・売る仕組み

鈴木 悌介氏

── 自社におけるエネルギー自給に取り組み、続いてエネルギーの地産地消、自立分散型システムを小田原で立ち上げました。

鈴木 ── 小田原箱根エネルギーコンソーシアムのことですね。ほうとくエネルギー株式会社、株式会社古川、小田原ガス株式会社、湘南電力株式会社の地元企業4社が、地域活性化を目指して自然資源を活用したエネルギーを地産し、地域内で供給できる仕組みを作るための組織です。エネルギーを創り、賢く使い、みんなでシェアする新しいエネルギーライフスタイルの実現を目指すとともに、エネルギーの地産地消によって生まれる収益を地域に還元するという貢献活動にもつなげています。

東 ── 大変興味深い取り組みです。従来の日本でスマートシティといえば、プロダクトアウト的に、メーカー主導で省エネテクノロジー満載のビルを建てる、といった発想に陥りがちでした。これに対して、地域コミュニティを核とする考え方は、極めて斬新ですし本質です。各プレイヤーはどんな役割を受け持っているのでしょうか。

鈴木 ── 電気を創るのが、ほうとくエネルギーです。これは地元企業38社が共同で出資し、資本金5400万円で立ち上げた発電会社で、小田原近郊の山中で、発電容量2メガワット(2000kw)の太陽光発電所を運営しています。初期の設備投資に必要だった4億円は、地元の金融機関からの融資に加えて、1口10万円の市民ファンドで1億円を集めました。

東 ── 市民から1億円を集めるのには、かなり苦労されたのではないでしょうか。

鈴木 ── 我々も時間がかかると覚悟していたのですが、ふたを開けてみると3カ月で完売しています。東日本大震災により、水面下では市民の意識も変わっていたのでしょう。立ち上げ当初は、東京電力に売電していましたが、現在は一切売電していません。

[図1] 地元企業4社によるエネルギーの地産地消、自立分散型システム「小田原箱根エネルギーコンソーシアム」
出典:「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議
小田原箱根エネルギーコンソーシアム

行政の巻き込み方にも一工夫

東 ── 4社を巻き込んだコンソーシアムに、行政は関わっていないのですか。

鈴木 ── もちろん、小田原市の協力を得ています。とはいえ、一般的な補助金などでの支援ではなく、メガソーラーの固定資産税を減免してもらいました。そして、ここがポイントなのですが、税減免処置は条例化してもらっています。

東 ── 安易に公的資金を入れるのではなく、支援策を条例化してしまうのは、すばらしい発想だと思います。発電を受け持つのがほうとくエネルギーで、送電を担当するのが湘南電力ですね。ただし、それだけでは小口の一般ユーザーへの小売までは、手が回らないのでは?

鈴木 ── そこで販売を担当するのが、小田原ガスと株式会社古川です。小田原ガスは都市ガスのサプライヤー、古川はプロパンガスのサプライヤーで、共に地元で100年余り続いている老舗企業です。

東 ── 都市ガスの会社とプロパンガスの会社なら、商売敵ではないですか。それが手を組んだというのは、何か「鈴木マジック」とでも呼ぶべき手腕を発揮されたのですね(笑)。

鈴木 ── そんな権謀術数を使わずとも、両社共に経営者が代替わりして40代ですから、筋道立てて話をすれば通じたのです。これからの地域社会を考えたときに、狭いところで競い合っている場合ではないだろうと。すると彼らも次の100年を見すえて、自分たちの子ども世代の地域社会を考えたときに、新しい一歩を踏み出す重要性を感じてくれました。

東 ── 結果的に、住民サイドからすれば、電力と都市ガス、プロパンガスの必要エネルギーをワンストップで供給してもらえるシステムが組まれた。エネルギーを地消する仕組みの完成ですね。

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