No.019 特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

No.020

特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

Expert Interviewエキスパートインタビュー

世界初の新しい交通システム「eハイウェイ」

2019.6.28

ドミニク・グルスケ
(ヘッセン州交通省「ヘッセン・モバイル」eハイウェイ リサーチエンジニア)

世界初の新しい交通システム「eハイウェイ」

去る2019年5月7日、ドイツ中部に位置するヘッセン州で、高速道路上に設置された架線から電気を取り入れて走る世界初の新しい交通システム「eハイウェイ」(eHighway)の試験運用が始まった。大型の電気(EV)トラックが屋根に設置されたパンタグラフから電力を得て走る姿は、かつて一世を風靡したトロリーバスを連想させる。ドイツが官民一体となって取り組むこの交通システムの狙いは何なのか――。ヘッセン州の交通省「ヘッセン・モバイル」のリサーチエンジニア、ドミニク・グルスケ氏に話を聞いた。

(インタビュー・文・写真/中村真人)

ドミニク・グルスケ氏

── ドイツ連邦政府はこの「eハイウェイ」のプロジェクトに、これまで7000万ユーロ(約86億円)を投じたと聞きました。そもそもどのようにして生まれたプロジェクトなのでしょうか?

ドイツ政府は、2030年までにCO2をはじめとする温室効果ガスの排出量を42%減らすという目標を持っています。エネルギー生産、産業、家庭など個人の消費に至るまで、あらゆる領域でこの動きを進めていますが、他に比べて交通分野は立ち遅れているのが実情です。ドイツの自動車産業では、電気自動車への移行がゆっくりとしか進んでいません。そこで、トラックの貨物輸送を電気化し、温室効果ガス排出量の削減を進めようという考えが生まれました。

問題は、EVトラックにした場合に巨大なバッテリーが必要になることで、その充電のための十分なスペースがありません。そのため、別の方法で電気を得ようと考えました。バッテリーを小さくして、充電のスペースを取れるように。それが、架線から得た電気で車を走らせる「eハイウェイ」のアイデアです。

── 貨物輸送といえば、鉄道も重要な役割を果たしてきました。

幸い、ドイツの鉄道はほとんどの区間で電化されています。ただ、鉄道では駅から駅までの決められた区間しか貨物を運べず、トラック輸送のようにフレキシブルではありません。実は、貨物輸送の79%はトラックによるものです。目的地まですべて電気で運ぶならば、トラックも電化しなければなりません。それゆえ、eハイウェイの技術に意義があるのです。

── このプロジェクトは最初、スウェーデンで始まったそうですね。

ええ、これはヨーロッパレベルの協力プロジェクトです。2016年、ストックホルム近郊に最初のテスト区間が造られました。このときスウェーデンの同僚たちと話し合ったことが、ドイツの試験走行でも生かされています。

── ドイツの16州に先駆けてヘッセン州が試験走行を始めた背景は何でしょうか?

ドイツ政府がこのプロジェクトの公募を行いました。様々な州がそれぞれのコンセプトで応募した結果、最終的に勝ち取ったのがヘッセン州でした。ドイツの中央部に位置するこの地域は、1日あたりのトラックの通行量がドイツで最も多いのです(※アウトバーンA5の1日あたりの車の通行量は約13万4000台で、うち大型トラックは約1万4600台)。ライン=マイン大都市圏には、フランクフルト、ダルムシュタット、マインツ、ヴィースバーデン、アシャッフェンブルクなど多くの都市があり、一つの地域に多くの工業と人口が集中しています。ドイツ旅行のスタート地点となる国際空港があるフランクフルトは、貨物交通の中心でもあります。

[図1]ヘッセン州 ライン=マイン大都市圏
提供:designrs/Hessen Mobil
ヘッセン州 ライン=マイン大都市圏ヘッセン州 ライン=マイン大都市圏

我々にとって有利だったのは、「ドイツで最も交通量が多い区間で試験がうまくいけば、他のどこでも機能するだろう」という見通しが立てられたこと。いわば、eハイウェイの最適な実験場でした。それで、ヘッセン州に委託されることになったのです。このプロジェクトは、「Elektrifizierter, innovativer Schwerverkehr auf Autobahnen(アウトバーンを走る電化した革新的な重量交通)」の頭文字を取って「ELISA(エリーザ)」と名付けられました。

── その中で、グルスケさんが勤務するヘッセン・モバイルの役割は何でしょう?

私は2017年からヘッセン・モバイルに勤務し、この「エリーザプロジェクト」を担当しています。アヒム・ロイスヴィヒ氏を責任者とし、他の3人の同僚と手分けしてこのプロジェクトの画の準備や各種調整業務を請け負っています。もともとは大学でエネルギー技術などを学びました。私が入社した2017年当時、このプロジェクトはまだ計画段階で、実験ルートを造るための建築権を得るのに苦労していました。直接関わる地域住民やアウトバーンの管理事務所、消防署などと話し合って、理解を得る必要があったからです。

2017年8月に計画段階を終え、建築権を得ました。それと同時にどこに技術面の委託をするかの公募を行い、シーメンス(Siemens AG)社*1が勝ち取りました。それから専用レーンの建設作業が始まり、この5月に試験走行がスタートしたというわけです。

[ 脚注 ]

*1
シーメンス(Siemens AG)社:ドイツの大手電機メーカー。1881年にベルリンで世界最初の電車を開発するなど、交通分野の製造でも知られる。現在の本拠はミュンヘンにある。
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