連載01
ヘルスケア/メディカルに半導体チップが生きる。
Series Report
第2回
現状のヘルスケアウェアラブルデバイス向け半導体事例
2019.1.31
連載第1回では、アップルウォッチやフィットビットなどのデバイスに搭載されている機能について議論してきた。これまでのところ、ウェアラブルデバイスの半導体は、心拍数、脈拍、心電図(ECG)、体温などの基礎データを測定し、データとして保存したりバイタルデータを可視化したりすることで、疾患の早期発見・早期治療につなげようとする動きが多い。ウェアラブルデバイスのカギとなるのは、やはり半導体チップ。特にアメリカを中心とする海外勢が強く、今回は海外の半導体チップメーカーを中心に紹介しよう。そして次の最終回では、ウェアラブルデバイスの問題点を洗い出していく。
アップルウォッチやフィットビットなどの時計タイプのウェアラブルデバイスは、2019年から2022年には年率11.6%で成長し、約1億9040万台に成長する、と市場調査会社のIDCは予想する(図1)。ちなみに、2018年はメモリの高騰によりデバイスも値上げせざるを得なかったため、6.2%増の1億2260万台にとどまるとしている(参考資料1)。
ウェアラブルデバイスが市場に登場した当初は、医療機器としては使えないことからさほど期待されていなかった。しかし、こういったウェアラブルデバイスで得られたデータが、まるでパーソナルトレーナー的な役割を果たすと認識されるようになったことから、市場が確立されてきたのだ。医療機器としては認められていなくても、個人的な健康の目安になると消費者が思えば、民生市場に広がっていくのである。
医療機器に対しては医療従事者の求める精度が高いと思われるかもしれないが、実は半導体の進歩は極めて速く、半導体を使った計測機器の中には従来の医療機器よりも精度が高いものもある。例えば、心電図のように生体内のわずかな電気パルスを検出するような装置は、数十年も使われてきている。もちろん、機器そのものは改良が重ねられてきているだろうが、その原理は変わらない。そのため、半導体技術を使うことで、ウェアラブルデバイスに従来の心電図を超える性能や精度が得られる可能性もあるのだ。ただし、厚生労働省の認可はまだ得られていない。
このように許認可が遅れていても、その性能に個人が満足できれば民生市場を確立することは可能だ。ウェアラブル機器への期待が大きい背景には、ハイテク感、美しいデザインなどの個人的な「感覚」があると考えられる。そこには、これから成長が期待される半導体市場があるといえそうだ。
どんな半導体が使われているか
アップルウォッチやフィットビットなどのヘルスケア用ウェアラブルデバイスには、どのような半導体が使われているのだろうか。これらのデバイスを分解した様子は、ウェブ上でも見ることができる。
例えば、フィットビット社(Fitbit)の最近の活動量計Fitbit Ionicでは、CPUを集積したアプリケーションプロセッサや、位置を示すためのGPSチップ、計測したデータを保存するためのNANDフラッシュメモリ*1、動いたり止まったりする時の力を計測する加速度センサ、インターネットにつなげるためのWi-Fiチップ、IDを同定するためのNFC(近距離無線通信)チップ、Liイオン電池の充放電を管理するバッテリ管理IC*2、心拍を測定するPPG(Photoplethysmorgraphy)などを搭載している。
アップル社(Apple)のアップルウォッチも同様な半導体ICを搭載しており、自社開発のアプリケーションプロセッサに加え、位置を示すGPS、Wi-Fi、Bluetooth 4.0、心拍センサ、加速度センサ、ジャイロスコープ、環境光センサ、ワイヤレス充電用の電力受信コイルと電源回路などを搭載している。
以上で見てきた半導体チップをまとめると、ウェアラブルデバイスの用途は生体計測だけにとどまらないことがわかる。生体計測に特化したICとは別に、活動量計に搭載されているGPSチップは、ユーザーの現在地や移動距離を測定するために使われている。また、蓄積したデータをサーバーやクラウドに上げるためには、Wi-FiやBluetoothなどの通信チップも必要となる。
[ 脚注 ]
- *1
- NANDフラッシュメモリ:
電気的に書き換え可能な不揮発性メモリの一つ。ある大きなブロック領域の一括で消去できることからフラッシュと名付けた。ビット単位で書き換えられる不揮発性メモリはEEPROMと呼ばれている。
- *2
- バッテリ管理IC:
バッテリが過充電にならないように制御するIC。過充電すると電荷が電池からあふれ発火などの危険な状態になるため、リチウムイオン電池とセットで使われる。