Visiting Laboratories研究室紹介
スマートコミュニティを社会に実装する研究
2018.10.31
いま日本だけでなく、世界規模で気候が異常化しつつある。その背景にあるのが地球温暖化だ。問題解決には再生可能エネルギーの活用、省エネルギーなどが必要となる。さらに日本では人口減少によって起こる問題への対処も欠かせない。一連の問題解決策として期待されるのがスマートコミュニティである。スマートコミュニティ研究の第一人者である小野田教授は、社会との接点を担うことに大学の役割を見出し、環境配慮エネルギーシステムの社会実装に取り組んでいる。
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第1部:
早稲田大学理工学術院
大学院環境・エネルギー研究科教授
小野田 弘士
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第2部:
早稲田大学創造理工学部
小川 聡久さん
総合機械工学科4年
早稲田大学大学院
宮原 樹さん
環境エネルギー研究科1年
第 1 部:早稲田大学理工学術院大学院環境・エネルギー研究科教授 小野田 弘士
現在継続中、地域エネルギービジネスからの貴重な学び
Telescope Magazine(以下TM)── 先生の著書『失敗から学ぶ「早稲田式」地域エネルギービジネス*1』を、興味深く読ませていただきました。
小野田 ── タイトルには「失敗」と入れていますが、もちろんすべてが失敗したわけではありません。著書で主に取り上げたのは、私たちが埼玉県本庄市で実施した本庄スマートエネルギータウンプロジェクト*2の話で現在も進行中です。このプロジェクトでは、本庄早稲田の「地の利」を活かし、早稲田大学の「知」を結集して産学官民連携でまちづくりを進めています。
TM ── 地域主体、分散型エネルギーシステムを基盤とするスマートコミュニティの考え方は、人口減少社会となったこれからの日本に必要な考え方ですね。
小野田 ── スマートエネルギータウンは、国と事業者だけの論理によって進められてきた従来のエネルギー供給システムに転換を図るスキームです。再生可能エネルギーの普及については、その導入が目的化されがちですが、本来の目的は地域の持続可能な発展であり、それを実現した結果がスマートエネルギータウンなのです。
TM ── ただ、本庄での取り組みにはかなり苦労されていると伺いました。
小野田 ── 同様の取り組みの成功事例では、不動産事業者や大企業等が保有している土地で一気呵成にプロジェクトが進められています。これに対して本庄早稲田では、プロジェクト予定地には多くの地権者がいます。スマートコミュニティを形成するためにはインフラ整備が不可欠ですが、これを進めるには地権者全員と開発者のベクトル合わせをしなければなりません。この調整が並大抵のことではありません。
TM ── 行政も相手となる、地道で時間のかかる折衝だと思いますが、そのような面倒な作業をどなたが担当されたのでしょうか。
小野田 ── スマートエネルギータウン構想を企画したのは私たちですから、折衝でも我々が中心となって動きました。電力、都市ガス、再生可能&未利用エネルギーのベストミックスを考え、分散型エネルギーシステムを構築する。そして、これを活用した次世代商業施設を核として街をつくるのです。とはいえ、再生可能エネルギーを導入した街というだけで、進出してくれる企業が増えるわけではありません。スマート化を進める前に、賛同してくれる事業者を見つけてこなければならないわけで、そうした作業の一切も私が主導しました。
TM ── 大学教員としての業務の範疇を大きく越えているように思います。
小野田 ── 街づくりに関するレポートを書けるコンサルタントなら、いくらでもいます。けれども、構想を実現するためには、まず実際の街づくりの全体像を描いた上で、細部をプロジェクトレベルに落とし込み、プロマネが事業を推進していかなければなりません。構想から事業レベルまでをこなせる人材はごく限られてしまうのが日本の現状です。あくまでリアルな事業であるため、当然資金調達も必要です。そうなると事業計画書をきちんと作った上でキャッシュフローも手当しなければなりません。まさにベンチャー起業家のような仕事を私がこなせたのには、以前同じような経験をしていたからです。
[ 脚注 ]
- *1
- 『失敗から学ぶ「早稲田式」地域エネルギービジネス』: 2017年6月に出版された小野田弘士教授の著書であり、スマートコミュニティづくりの実践的な教科書である。環境・エネルギー分野の特性から説き起こし、小野田教授が中心人物として関わった本庄スマートエネルギータウンプロジェクトの詳細から地域エネルギープロジェクトの成功に向けたポイントまでがていねいに記されている。
- *2
- 本庄スマートエネルギータウンプロジェクト: 早稲田大学と財団法人本庄国際リサーチパーク研究推進機構が取り組む、新しい街づくりのプロジェクト。埼玉県本庄市の上越新幹線本庄早稲田駅周辺で整備が進む土地区画整理地区において、自然エネルギー(バイオマス、地中熱、太陽熱、太陽光など)を活用し、地域のエネルギーや交通システム、ライフスタイルを総合的に組み合わせた、エネルギー効率を高めて省資源化した地方版スマートシティをつくっている。