No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

Expert Interviewエキスパートインタビュー

小惑星鉱業が指し示す未来、
ディープ・スペース・インダストリーズ社の
宇宙ビジネス

2018.02.28

ビル・ミラー
(ディープ・スペース・インダストリーズ社(DSI)CEO)

小惑星鉱業が指し示す未来、ディープ・スペース・インダストリーズ社の宇宙ビジネス

宇宙ビジネスが数々現れる中で、宇宙空間にある小惑星での資源採掘を行おうという動きが始まっている。宇宙を拠点にし、宇宙で商売をしようというビジョンだ。その1社であるディープ・スペース・インダストリーズ社(DSI)は、シリコンバレーを拠点にし、この地域の歴史によって育てられてきた宇宙科学者や宇宙船開発者らをチームに迎えて、現在は推進システムの開発や宇宙船の設計に挑んでいる。一体、小惑星での資源採掘とはどのように実現するのか。同社を訪問し、CEOのビル・ミラー氏に尋ねた。

(インタビュー・文/瀧口範子 写真/鍋島明子)

── DSIは小惑星鉱業を行うための技術開発を進めているということですが、小惑星では何が採掘できるのでしょうか。

小惑星にはいろいろな種類があります。金属質や岩質のものが多い中で、われわれが関心を持っているのは「Cグループ」と呼ばれる小惑星です。これは炭素質コンドライト(carbonaceous chondrite)であることを意味し、大量の水分を含んでいて、粘土のように柔らかい。金属や岩の惑星は固く、採掘は簡単ではありませんが、水分は揮発性で抽出しやすいのです。

[図1] 小惑星の種類:大量の水分を含むCグループの小惑星は重要なターゲット (C)Deep Space Industries
小惑星の種類:大量の水分を含むCグループの小惑星は重要なターゲット

── 宇宙で水を採掘し、それを宇宙で売るということですか。

水は、「宇宙の黄金」と呼ばれます。というのも、水は放射線シールドに利用できるので、宇宙船に大きなシートをかける必要がなくなる。水は、水素と酸素に分離できるので、ロケットや人工衛星の燃料にもなり、分離には太陽光が利用できます。もちろん酸素は人間の呼吸に必要ですし、水は飲料や植物を育てるのにも利用できる。しかし、宇宙での利用方法はたくさんあるというのに、地球から重力に逆らって宇宙に運搬するためには、1トンあたり1000万ドル、つまり1リットルあたり1万ドルという多大なコストがかかります。それを宇宙で採掘するのです。ちなみに、われわれの宇宙船の推進システムも燃料に水を使用しています。

── 小惑星で水以外に採掘できるものは何がありますか。

固形資源も期待できます。小惑星には、プラチナ族金属(PGM)と呼ばれる原料も豊富にあります。地球上で使われているデバイスの4分の1にはPGMが利用されていますが、だんだん希少になっています。ただ、これは採掘するのが難しい。いずれ宇宙での掘削技術が高まれば、こうした固形資源を採掘する経済的な利点も出てくるでしょう。

── DSIでは、小惑星での採掘に関わる技術とビジネスのステップを、探査(prospecting)、採掘(harvesting)、処理(processing)、製造(manufacturing)の4段階に分けて計画しているかと思います。現在は探査の段階にあるわけですが、すでに開発されている推進システムを搭載した宇宙船の打ち上げは予定されているのでしょうか。

現在、DSIでは宇宙船「プロスペクター」を開発しているところです。完成は2019年、発射は2020年を予定しています。プロスペクターは小惑星まで飛び、地球の軌道まで戻ってきます。推進力を利用して、宇宙空間まで飛んだ宇宙船はこれまでありませんでした。われわれは強力で特殊な推進システムを開発して、これを可能にします。

[図2] 宇宙船プロスペクター1のイメージイラスト
(C)Deep Space Industries
宇宙船プロスペクター1のイメージイラスト

── プロスペクターの推進システムは、どのようなものなのでしょうか。

開発したのは2種類です。一つは、ここにあるモノプロペラント(単元推進剤)を利用した「コメット(Comet)」。クリーンなエンジンで、燃料には水しか使いません。現在、ほとんどのロケット・エンジンは、毒性、爆発性のある変異原物質を用いており、取り扱いが危険なためにコストも高くなっています。一方、コメットはそうした危険がなく、2017年4月から販売を開始しましたが、大変評判がいい。昨年の販売は数基でしたが、今年はすでに6〜7社との契約にこぎつけています。

手前がモノプロペラント(単元推進剤)を利用した「コメット(Comet)」
ビル・ミラー

── もう一つのエンジンは、どのようなものですか。

やはりクリーンなバイプロペラント(二元推進剤)を利用したもので、2018年半ばに販売予定です。燃料が何かということは、企業秘密のため詳しくお話しできませんが、それは酸化剤でもあります。コメットよりもパワフルなエンジンであり、DSIの宇宙船のメイン・エンジンとしても利用されます。

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