No.017 特集:量子コンピュータの実像を探る

No.017

特集:量子コンピュータの実像を探る

連載01

ネット革命第2波、ブロックチェーンの衝撃

Series Report

第3回
ブロックチェーンの応用で
銀行も政府も不要に

2018.6.29

文/伊藤元昭

ブロックチェーンの応用で銀行も政府も不要に

2008年にSatoshi Nakamotoと名乗る人物が発表した論文から始まったブロックチェーンの技術は、わずか10年足らずで、取引や契約が関わるあらゆる分野への応用が検討されるようになった。その応用分野は、金融だけではなく、保険や遺産相続、著作権など権利の管理、物流、製造業、教育、医療、さらには政府機能にまで広がり、今やブロックチェーンに関連しない分野を探す方が難しいくらいだ。信用や権威のある第3者を介さずに取引や契約を行うというブロックチェーンのコンセプトは、これまでの商習慣や社会活動の仕組みを根底から覆すものだ。それでも、これほど短期間で様々な分野への応用開拓が進んでいるということは、ブロックチェーンが持つ潜在能力の高さを端的に示している。連載最終回の今回は、様々な分野で進められるブロックチェーンの応用開発の取り組みを具体的に紹介する。

経済産業省は、報告書「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査)」の中で、仮想通貨以外のブロックチェーン関連市場の規模を67兆円と見積もっている。同時に、その応用範囲は極めて大きく、生活や社会活動の根底の部分で大きなインパクトをもたらす可能性があると指摘した(図1)。

[図1] 仮想通貨以外のブロックチェーン関連市場の規模は67兆円
出典:経済産業省発行の報告書「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査)」
初期市場で技術の素地を固め、展開市場に応用

多くの企業、政府は、ブロックチェーンがもたらす変革にのみ込まれると、取り返しのつかない不利益を被る可能性があるという切迫感を感じている。そして、むしろブロックチェーンを既存の仕組みに取り入れて、よりよい仕組みを作り上げるため活用する方向に転じ始めたのだ。これから数十年間にわたって、ブロックチェーンの仕組みを使い、人類が数千年掛けて作り上げてきた商売や社会の仕組みを新しく作り変えていくことになるのかもしれない。

今回は、既に始まっているブロックチェーンを活用した、様々な分野における応用開発の取り組みを、具体的に紹介していく。こんなところまで変わるのかと、びっくりするような取り組みも多い。

ブロックチェーンなしで未来の金融業界は成り立たない

銀行は、ブロックチェーンによる変革に最初に直面した業界である。企業間や個人の間に入って、お金を安心かつ柔軟に動かすことが銀行の存在意義である。このため信用のある第三者を必要としない取引を、可能にするブロックチェーンは、銀行の存在を否定しているのに等しい。

各銀行は、ブロックチェーンがもたらすメリットは時代と社会の要請であることを悟り、ブロックチェーンを黙殺するのではなく、逆に活用して業務の迅速化、効率化、安全化を図る方法を模索し始めた。手形や小切手の電子化、社内や銀行間の送金など、想定される用途は多岐にわたる。スイスのUBS銀行やイギリスのBarclaysなどは、行内での決済や送金などの迅速化とコスト削減を狙って、ブロックチェーン導入を検討している。三菱UFJファイナンスグループも、独自の仮想通貨「MUFGコイン」を開発し、銀行内での送金システムや個人間の送金などへの利用を検討している(図2)。

[図2] 三菱UFJファイナンスグループが開発した独自仮想通貨「MUFGコイン」の機能
出典:CEATECH 2017での同社の展示パネルを撮影
三菱UFJファイナンスグループが開発した独自仮想通貨「MUFGコイン」の機能
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