No.017 特集:量子コンピュータの実像を探る

No.017

特集:量子コンピュータの実像を探る

量子コンピュータが描く明るい未来

クロストーク ”テクノロジーの未来を紐解くスペシャルセッション”

量子コンピュータが描く明るい未来

堀江 健志
株式会社富士通研究所 取締役
齋藤 和紀
エクスポネンシャル・ジャパン株式会社 共同代表

「既存のコンピュータと比べて1億倍速い」。これは、カナダの企業が開発しGoogleやNASAが導入した、量子コンピュータのキャッチフレーズだ。このようにコンピュータパワーがエクスポネンシャル(指数関数的)に向上していった先に、何が起こるのだろうか。量子コンピュータと汎用コンピュータ両者の良さを取り入れた『デジタルアニーラ』を開発した富士通研究所、取締役堀江健志氏を、シンギュラリティ・ビジネスに造詣の深いコンサルタント齋藤和紀氏が訪ねて、近未来についての議論を交わした。

(構成・文/竹林篤実 写真/黒滝千里(アマナ))

国を挙げた開発競争

齋藤 和紀氏

── 前編では、デジタルアニーラの可能性について伺いました。こうした最先端領域の研究には、特に中国などが国を挙げた開発支援を行っていそうですが。

齋藤 ── 量子コンピュータを実現できれば、間違いなく国力向上に直結します。だから中国はAIに巨額の投資をしています。その一例がスーパーコンピュータの数です。現時点で中国国内にはアメリカを上回る数のスーパーコンピュータがあるといわれています。また早くも2007年には「千の才能計画」を立ち上げ、世界各地から優秀な人材を中国に呼び寄せてきました。こうした国ぐるみの動きが起こっている中で、日本の現状について堀江さんはどのように見ておられますか。

堀江 ── 投資うんぬんの話ではなく、日本の場合は産学連携がうまくまわっていないように感じます。これは主に我々企業サイドの問題で、大学や研究機関と共同で自分たちの課題解決に取り組む仕組みが、今ひとつ機能していない。もとより大学とのコミュニケーションがないわけではありません。ただ話は通じているのだけれど、今ひとつ隔靴掻痒というか、本当に取り組みたいテーマがきちんと伝わっていないのではないか。コンピュータベンダーの富士通の中央研究所としては、ぜひ大学の方々とがっちりスクラムを組んで進めていきたいと考えています。

齋藤 ── 一昔前の半導体オールジャパン体制ではないにせよ、産学連携がうまくまわってこそ、国力の充実につながります。御社の場合も、トロント大学や1QBit社などとの連携は積極的に進めている。オープンイノベーションや共創などとよく言われますが、多面的な力を結集した方がいいのは当たり前ですね。

イノベーションに必要なダイバーシティ

堀江 ── イノベーションについて語るなら、海外の人を巻き込まなければなりません。イノベーションはダイバーシティの中から生まれてくるものです。その意味で、日本の中だけでの産学連携では、いま一つ多様性に欠けると言わざるを得ない。

齋藤 ── 残念なことですが、日本の研究者が海外に出ることはあっても、特にAIなどの分野で活躍する海外のトップ研究者が、日本に研究に来るケースはほとんどないようですね。

堀江 ── 私がスタンフォード大学にいた頃ですから、ずいぶん前の話になりますが、当時からアメリカでもトップクラスの大学の学生たちは揃って、自分たちがやっている研究こそが世界一だと自負していました。話をよく聞くと何の根拠もないにもかかわらずです。そのとき痛感したのが、そういう意識が自然に醸成される環境を作ることの大切さです。翻って日本をみたとき、企業も含めてどうしても自己評価の低さを感じざるを得ません。

齋藤 ── 大学も企業も、学生も企業人も、“もっと自己を高く評価すべし”というのは貴重な提言になりますね。

堀江 ── 本当にスタンフォードの学生からは、自己評価の高さを強く感じました。おそらくノーベル賞を取った研究者など、優秀な先生が身近にいるため、自然に良い論文を書けるといった環境の力が大きいのです。

齋藤 ── だからといって悲観する必要もないと思います。日本にだってすごいところはたくさんある。そもそも量子アニーリングを考案したのは、日本の科学者なのです。だから大いに自信を持っていい。ただ、最近は海外留学に出る学生が減っていると聞きます。そこは積極的に外に出ていき、多種多様な人たちと触れ合う必要はあると思います。

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