連載02
電子機器から自由を奪う電源コードをなくせ
Series Report
第1回
電力の地産地消
2017.12.28
電源コードは、電気・電子機器を使う際に直面する、代表的ながっかりポイントだ。機器の利用場所をコードが届く範囲に限定するし、機器から尻尾が生えたように見えるその見た目もかっこいいものではない。同じくケーブルを必要としていたネットワークが続々と無線化してきたため、余計に電源コードの不自由さと不格好さが目立つようになっている。ところが近年、好きな場所で気兼ねなく機器を利用できるようにすることを目指し、電源コードなしで電源を確保する技術の開発が進んできた。本連載では、第1回は機器の近くで電力を生み出す技術を、第2回は無線で電力を伝送する技術を、第3回は電源コードがない機器を量産する技術を解説する。
IoTが当たり前になりつつある時代、あらゆるモノをインターネットにつなぐため、Wi-FiやBluetoothといった無線通信機能が、さまざまな機器に搭載され始めた。情報をやり取りするためのケーブルが不要になり、機器を好きな場所に置いたり、自由に動き回ったりしながら、ネットを介して情報をやり取りできるようになったのだ。
しかし、これで電気・電子機器が自由になったわけではない。多くの電子機器類には、機器をしばりつけるもう一つのケーブルがある。それは、電源コードだ。
もちろん、バッテリ駆動の携帯機器などは、通信用ケーブルがなくなれば、電波が届く範囲内でどこでも利用できるようになる。しかし、使い続けるためには電池交換や充電が欠かせない(図1)。これは機器を利用する上での足かせになる。例えば、農業用IoTで、作物の生育状況や農地の状態を計測するセンサ機器を広い畑に分散配置する場合を考えてみる。センサ機器を電池で駆動すると、定期的な電池交換や充電に膨大な手間が掛かることになる。また、農地全体に電源コードを張り巡らせるならば、膨大な初期投資が必要だ。しかし、電源コードがなくても電力を供給できるようになれば、こんな苦労は一切なくなる。
それに、電源コードはそもそも不格好である。デザインにこだわった美しいノートパソコンやデザイン家電を買ってきたというのに、家に帰って設置してみると、電源コードがニョロリと出ている姿を見てがっかり。多くの人がこんな経験をしたことがあるのではないだろうか。
古典的課題の解消に最新技術で挑む
電気・電子機器である限り、電源がないと動かない。しかし、電源の確保自体が機器の利用シーンを限定する要因になる。この悩ましい状況をいかに克服するかは、電気を利用した機器が登場して以来、エンジニアを悩ませ続けてきた課題である。
電気・電子機器がパーソナル化し、携帯化、IoT化したことで、この古典的課題が顕在化してきている。ただし、電気・電子技術の進歩は著しく、電源を確保するための技術も大きく進化した。そうした最新技術を用いて、悩みの種だった電源コードを撲滅しようとする動きが数多く出てきている。
ただし、電気・電子機器によって消費する電力量は様々だ。腕時計がわずか1μW程度で動いている一方、ヘアドライヤーは1kW以上を必要とするものもある。いずれも電源コードや電池交換がなくなれば、より便利になる点では同じだが、消費電力には十億倍もの開きがあるのだ。この事実が何を意味しているかと言えば、電源コードを撲滅できる技術があるとしても、1つの技術ですべての電気・電子機器の電力供給をカバーすることは難しい。
電源コードを撲滅する2つのアプローチ
本連載では、電源コードの撲滅に向けた「電力を地産地消する技術」「電力を無線で伝送する技術」、電源コード不要化の対象範囲を広げる「省電・蓄電技術」に分けて、3回シリーズで解説する。なぜ、こうした区分で解説していくのか、まずはその理由について説明をしたい。
電源コードをなくすための技術を考えるにあたり、どのように「電力が作られ」「消費する機器に運ばれ」「消費されるのか」という点を振り返ると、課題解決の視点が分かりやすい。スマートフォンを例に採ってみよう(図2)。この場合、撲滅したいのは、充電時にコンセントとスマートフォンを繋ぐケーブルになる。このケーブルがなくても、ずっと使い続けられるような状態が目指すゴールである。