No.024 特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

No.024

特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

連載01

“非密”のテクノロジーを活かせ

Series Report

第2回
“密集”しなくても密なコミュニケーションを可能に

2020.10.20

文/伊藤元昭

“密集”しなくても密なコミュニケーションを可能に

コロナ禍の中、テレワークによる仕事、リモート授業の受講、いわゆる「Zoom飲み」や「LINE飲み」が日常になっている人は多いのではないだろうか。感染予防の観点から、世界中で多くの人の密集を避けるソーシャルディスタンス(社会的距離)を取って生活や仕事をすることが求められるようになった。ただし、多くの人が集まらないとできない業務や作業は確実にある。物理的な密集を避けながら、密なコミュニケーションを取るため、ネットをフル活用した生活が始まった。コロナ禍によって開発・活用が進められた三密を解消・対策するための“非密”のテクノロジーを紹介している本連載。第2回は、“密集”状態になることを防ぐための技術を解説する。

新型コロナウィルスの蔓延によって、日々の生活や仕事の場から人が消えた。人が集まるあらゆる場所で、多くの人の密集を避けるソーシャルディスタンスを確保することが、求められるようになったからだ。

これまで当たり前のようにできていた会食やショッピングもできず、楽しみにしていた社会人や大学生としての新生活も叶わず、コンサートや展示会などイベントもほとんどが中止された。それでも、生きていくため、生活や仕事を中断することはできない。コロナ禍によって世界中で生まれた難民が、バーチャルな世界に活路を求めていった(図1)。

[図1]密集を避けるため、日常の生活と仕事の場がバーチャルな世界に移行
写真:Adobe Stock
経済活動の活発化や生活の豊かさを求めて、積極的に「三密」状態を作り出してきた

3、4年分のICT市場の開拓を、わずか2週間で達成

新型コロナの影響が顕在化する以前から、業務の高付加価値化と効率化を目指したデジタルトランスフォーメーション(DX)が、あらゆる産業で進められていた。ただし、ICTの活用に加え、生活様式や仕事の進め方の変革が求められるDXの進みは、ゆっくりとしたものだった。特に、行政、教育、医療といった様々な立場の人と対峙する業種で、その進みが遅い傾向があった。

ところが、コロナ禍の到来によって状況が一変した。現実世界の生活や仕事の場を、バーチャルな世界に移す「デジタルシフト」が急速に進んだのだ。あらゆる業種・立場の人々が、日々の生活や仕事を継続するため、否が応でもDXを推し進めて密集を避ける必要が出てきたからだ。新型コロナウィルスと共存する、いわゆる「Withコロナ」の状況下において、テレワークやバーチャル・イベント、SNSなどを通じたコミュニケーションが日常化していった。

その結果、「3、4年掛けて進める計画だったクラウドサービスの新規顧客開拓を、ほんの2週間で達成してしまった」と、多くのICTベンダー担当者が口を揃えて語るような状況が現出した。例えば、Googleのテレビ会議サービス「Google Meet」の、2020年4月時点での1日の使用量は、同年1月比で何と25倍に急増した。Microsoftの「Microsoft Teams」も、2020年3月28日に新型コロナの感染が激増中だったイタリアにおける利用件数が775%増加した。そして、ウェブ会議サービスを提供している2011年に設立されたばかりのアメリカのZoom Video Communicationsは一躍世界中で名が知られる企業になり、9月には業績の急伸期待から株価が1日で40%以上上昇し、何とアメリカのIT業界の巨人であるIBMの時価総額を超えるまでになった。

バーチャルな世界は一転して超過密状態に

ただし、突然バーチャルな世界、言い換えればクラウドに世界中の人々が押し寄せた結果、いくつかの問題が顕在化してきた。特に大きな問題となったのが、ICTシステムのリソース不足が顕在化したこと、ネットに最適化されていない生活行動や業務がセキュリティ面やプライバシー面でのリスクを抱えたことだ。

まずは、ICTシステムのリソース不足とその対応について紹介しよう。

日本では、2019年の改正 働き方改革関連法の施行を機に、ここ数年テレワークの仕組みや制度を整備する企業が増えていた。在宅勤務ができれば、会社での拘束時間が短くなり、効率的な仕事ができるようになる。また、子育て中の家庭でも大きな支障なく、勤務が可能にもなる。ただし、働き方改革に向けてテレワーク用のITシステムを導入した企業も、全社員が一斉にテレワークをするような状況は想定していなかった。このため、通信回線やテレビ会議の処理容量は、コロナ禍で求められた量には全く足りていなかった。

企業内部でのICTのリソース不足が原因で発生したシステム障害は、なかなか表に現れることがない。しかし、同様の状況下で遠隔授業に移行した大学では、トラブルが相次いで表面化した。大学で遠隔授業が本格化したのは2020年のゴールデンウイーク(GW)前後のことだったが、開始してすぐに青山学院大学、国学院大学、東海大学、明治大学、早稲田大学など多くの大学で様々なシステム障害が発生した。おそらく、多くの企業でも同様の障害が多発したものと推測される。

こうしたシステム障害などのトラブルが起きた原因は、大学や企業の準備期間があまりにも短かったことにある。日本では、3月締め、4月初めの年度スケジュールで予算が組まれている法人が多いが、新型コロナの感染が本格化した2月最終週から年度をまたぎ、2020年度予算にコロナ禍対策が計上されていない状態の中、1~2か月という短期間でシステム投資に対する難しい判断を迫られたのである。

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