- 澤口 俊之
- 人間性脳科学研究所所長
武蔵野学院大学教授
- 竹之内 大輔
- 株式会社わたしは CEO
PRESENTED BY
クロストーク ”テクノロジーの未来を紐解く
前編:人間にとって笑いとは何か
人間の創作活動に目覚ましい勢いでAIが進出し始めている。絵画、俳句、小説や作曲などの創造性を要求される分野においても、AIの研究成果が相次いで発表され、遂にAIは人間ならではの感情表現「笑い」の世界にも進出した。ユーザーがチャットを送ると、ボケを返してくれるAIサービス『大喜利人工知能(以下、大喜利AI)』である。人それぞれに異なる複雑な感情「笑い」を、個別最適化し提供してくれる対話型AI、その開発に取り組むのが“株式会社わたしは”のCEO・竹之内大輔氏だ。その竹之内氏を、人間性脳科学研究所所長であり『ホンマでっか!?TV』の人気出演者でもある澤口俊之氏が訪ね、人が笑うことの科学的な意味、AIがもたらす笑いの可能性について議論を交わした。
竹之内 ── 僕の師匠が郡司ペギオ幸夫*1先生で、大学院時代は先生の『原生計算と存在論的観測』をひたすら読んで研究をしていました。その郡司先生が参加した養老孟司先生のシンポジウムで、澤口先生のお名前をお見かけしたのです。
澤口 ── ずい分前の話だと思いますが、よく思い出してくださいましたね。その会合はたぶん脳科学関係だったはずです。ところで今日はAIと笑いの話なんですね。
澤口 ── 実は笑いの研究はそんなに進んでいないのです。研究は一般にネガティブ感情を対象にしたものから先に進みますので、脳科学研究でも「fear」つまり恐怖に関する研究からスタートしています。その結果恐怖を感じる場所が、脳内の扁桃体*2と呼ばれる部分であると明らかにされたのが、ようやく20世紀後半ぐらいの話です。「笑い」のようなポジティブ感情についての研究は、ずいぶん遅れて始まり、ようやく最近少しずつコンセンサスが得られるようになってきたぐらいです。
竹之内 ── 笑いの研究は、比較的新しいのですね。そもそも笑いの定義はどの様になっているのでしょうか。
澤口 ── 定義は簡単で2通りあります。一つはソーシャルグルーミングであり、もう一つは脳の混乱を抑えることです。グルーミング、つまり毛づくろいといえば猿が有名ですが、猿は仲間と毛づくろいをし合うことで親和性を高めます。2匹の猿が体をひっつけてやるわけだけれど、人間は違う方法で親和性を高めるようになりました。それが笑いです。人間の場合、表情筋が豊かで言葉も使えるようになったので、お互いに笑い合うことで社会的な絆を高めているのです。
竹之内 ── もう一つの笑いが脳の混乱を抑えるためとおっしゃいましたが、これはもしかすると僕らが開発した『大喜利AI』に近いような気がします。
澤口 ── おそらくそうだと思います。予測に反することが起こると、脳は混乱します。とはいえ混乱したままだと気持ちが悪いので、笑って混乱を抑え込む。ざっとお話を聞いた限りでは『大喜利AI』はそっち系でしょう。AIを活用していると伺っていますが、最近のAIの進化は本当にすごいですね。例えば二人で一緒に笑っている画像をAIに判断させると、その二人が友だち同士なのか、それとも他人なのかを見分けてしまいます。人間が目で見てわかることなら、たいていAIも理解できるようになっている。
竹之内 ── 確かにAIの発達というか機械学習、ディープ・ラーニングの進歩はとてつもない勢いです。
澤口 ── 感情を見抜くAIの研究も進んでいるし、書いた文章の良し悪しもAIが判断するようになっています。脳科学の分野でもAIを使って研究が進められ、その結果得られた脳科学の新たな知見がAIに活用されて、さらにAIが進化する。こんなサイクルが回っているから、3カ月単位ぐらいで新しい知見がどんどん出てきて、全部を追いかけるのが面倒くさくて仕方がありませんから。