Expert Interviewエキスパートインタビュー
IoTを駆使、データを紐づけ、
次世代スマートビル/シティの価値を高める
2018.10.31
昨年11月、ソフトバンクと日建設計はIoTやロボットを活用した次世代スマートビルディングの設計開発などを共同で行うことを目的とした業務提携を発表した*1。ITや通信分野のソフトバンクと、建築設計を主力業務としてきた日建設計がなぜ提携したのか、どのような狙いがあるのか、日建設計が考える次世代スマートビルディングのコンセプトを聞いた。
ビルオーナーとテナントに価値を提供
── 次世代スマートビルに取り組む日建設計の最終的な狙いは何でしょうか
吉田 ── 当社の主力クライアントはビルのオーナーです。まずは建築設計を通して、ビルのオーナーに価値を提供することが狙いとなります。そして、ビルに入居するテナントにも、どのような価値を提供するかを追及しています。
スマートビルとは、いろいろなセンサーやカメラ、計測機器を取り付けて、ビル内のあらゆる情報を一元管理できる体制を構築したものです。その情報をもとに、ビル管理のコストを削減できると言われていますが、スマートビルの利点は実はビル管理以上に、ビル経営にあるのではないかと私たちは考えています。
中谷 ── もう少し定量的に言えば、ワーカー一人当たりの光熱費がひと月当たり5000〜6000円、一人当たりのテナント賃料が5万〜6万円、一人当たりの人件費が50万〜60万円、つまり1:10:100という比率になります。ですから、コスト削減の本丸は働き方になります。しかし、ここは私たちのようにデベロッパーから依頼を受けて設計を行っている会社からは最も遠いところになります。デベロッパーは建物のオーナーですから、テナントの中に入り込んで働き方に関与することは難しいわけです。そのため当社では、本丸に近付くことを目標にしながらも、まずは業種的に近いところから攻めていくことになります。つまり、センサーやIoTなどを駆使して、デベロッパーの業務をどう効率化できるか、どう省力化できるか、というところから始めるということです。
吉田 ── ビルオーナーはこれまで一つのビルシステムでの運営をしてきましたが、スマートビルを通してデータが溜まってくると、同じエリア内で複数のビルを同じ目線で運営できるようになります。どのビルのどの部分に空きがあるといった詳細なデータが一目でわかるようになるので、エリアを対象としたビジネスが容易になるわけです。
テナントによってはスモールオフィスのように分散した運用を望む会社も増えてきています。また、1社にずっと借りてもらうだけではなく、タイムシェアリングで同じスペースに別のテナントを入れるといったことでも、データを活用することで可能になります。
── データが最も重要な価値を持つようになるのですね。そのデータは日建設計が持つのでしょうか?
吉田 ── ここは法的、財産権的、個人情報的な話となるので、当社がまとめて持つことは無理だろうと思います。データ連携という形で、見かけ上の一元化したデータを、オーナーと共有する形で考えているところです。データによって、オーナーが専有するものや、当社と共有化できるものなど、さまざまな形態ができるのではないかと思います。
── テナントがデータを所有する場合もありますね
吉田 ── オフィスワーカーの働き方を可視化するデータは、テナントが所有することになるだろうと思います。ただ、エレベーターにどれだけの人数がどの時間帯に乗っているか、といったデータはオーナーが持つでしょうね。
最近は製造業でもデータをどうやって持つか検討しておられるようですが、この壁をなかなか突破できないようです。しかし当社は、スペースを提供して、それを使っていただく人たちにサービスを提供しているので、データを所有しておられる方たちの理解を得ながら一元化できれば、有効な活用ができると思います。
── 名前を伏せるなど、個人情報に触れないようにデータを加工して、使える形にしていく必要がありますね。
吉田 ── 個人情報をスクリーニングし、紐づけされていないデータをいただくことで、いろいろな分析やマネージメントに使いたいと考えています。この辺はまだルール化されていませんが。
[ 脚注 ]
- *1
- ソフトバンクと日建設計が業務提携(プレスリリース):
https://www.softbank.jp/corp/group/sbm/news/press/2017/20171127_01/