No.024 特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

No.024

特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

連載01

“非密”のテクノロジーを活かせ

Series Report

第3回
人やモノが“密接”しなくても困らない仕掛けを求めて

2020.11.20

文/伊藤元昭

人やモノが“密接”しなくても困らない仕掛けを求めて

これまでの私たちの生活や社会活動は、人と人が触れ合うことを前提とした仕組みの中で営まれていた。そして、人同士が密に触れ合うことは、疑いなく好ましいことであった。しかし、コロナ禍によって、“密接”な状態は避けなければならなくなった。これによって、暮らしやビジネスがまったく立ちゆかなくなった人たちは多い。コロナ禍を契機に、密接な状態にならなくても困らない仕掛けが求められている。ここにテクノロジーが貢献できる部分は多い。コロナ禍によって開発・活用が進められた三密を解消・対策するための“非密”のテクノロジーを紹介している本連載。第3回は、“密接”状態になることを防ぐための技術と取り組みを紹介する。

世界の企業の中でも、日本企業は、顧客との密接な関係を特に重視しているように思える。実際、密着営業・密着サポートを自社の強みとして挙げる経営者は多い。顧客の元へ足繁く通って相手との距離感を詰め、一挙手一投足を観察し、要求される前に望まれることを先回りして用意しておく。こうした「おもてなし文化」を背景にした日本企業のビジネス手法は、世界にも通用する強みであり、美徳でもあった。

ところが、新型コロナウイルス感染症の蔓延によって、状況は180度変わった。日本企業が誇る密着営業・密着サポートの強みは、顧客から告げられる「三密防止の観点から、来ないでください。おそらく当社の社員も出社していません」という言葉で、完全に封じられている。

密着サポートが自慢だった、ある製造装置メーカーのエンジニアは次のようなことを語り途方にくれていた。「装置の立ち上げを、設置現場に出向いて行おうとしたのだが、『現場には来ないでほしい』と言われてしまった。そして、『何とかリモートで立ち上げる方法はないのか』とも言われたが、そんな装置の立ち上げなどやったことがない…」(図1)。

[図1]密着営業・密着サポートによる製品の導入・保守の強みが封じられ、リモートでの作業が求められるようになった
写真:Adobe Stock
密着営業・密着サポートによる製品の導入・保守の強みが封じられ、リモートでの作業が求められるようになった

これまで、同社が作っていた装置は、立ち上げや運用に際して、現場に出向いたメーカーメンテナンス要因による手厚いサポートを前提に作り上げられていた。このため、急にリモートでの立ち上げを望まれても対応できるはずがないのだ。そして、顧客が別の場所に新規導入する予定の装置には、センサーやリモート設定などの機能を備えた海外企業の製品の導入を検討していることを知り、頭を抱えてしまった。これまでの強みが、一転して弱みになってしまった切ない話だ。今、多くの日本企業が、同様の悩みを抱えるようになってきた。

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