Expert Interviewエキスパートインタビュー
新しいモビリティ時代を生むための、政策づくりの挑戦とは
2018.09.28
カリフォルニア大学バークレー校の交通持続可能性研究所(TSRC)では、モビリティ*1を提供する企業と、モビリティを受け入れる地元の都市とが、いずれも発展していく方法を探っている。実はスマートシティが実現する前には、地道な調査や研究が求められるのだが、このことはあまり知られていない。スマートシティを支える新しいモビリティ時代の背景を同研究所の共同ディレクター、スーザン・シャヒーン教授に聞いた。
── 未来のスマートシティはどんなものになるのかといったイメージ図を、よく目にするようになりました。しかし、そうした予想図を見てもよくわからないのが、現時点からそこにどうやって到達するかです。シャヒーン教授が共同ディレクターを務めているTSRCでは、モビリティに関する技術面の研究だけではなく、経済、社会、環境面での幅広いインパクトを調査し、地元政府が政策立案する際の重要な判断材料にもされています。
モビリティには、技術と経済の両面からアプローチする必要があります。そして、広く社会と環境にどんな影響を与えるのかを理解しなければなりません。現在起こっているのは、既存のモビリティ体系の破壊です。その中でわれわれの関心事は、シェア自転車やスクーター、そして自走車に至るまで、どうすれば今後10数年で最良のモビリティへとたどり着けるのかということです。
現時点では、完全な自走車がオンライン化するのがいつになるのか明確ではありません。各都市がそれを決定する立場にあるわけですが、どこも明確なロードマップを持っていないのです。
今は、企業が多くの実験やテストを行い、それを受けて各都市が政策面で反応するという状態にあります。その政策も国全体をカバーするものがあるわけではなく、各都市がそれぞれの事情を考慮して判断を下しているのです。
都市ごとに、周辺環境や土地の利用方法、公共インフラはもちろんのこと、市民の気質や地方議員の考えも異なっています。そのため、スマートシティに転換していく場合に、どんな地方都市にでも当てはまるような政策はあり得ません。ただ、現在進められている実験は、各都市がモビリティの変化について理解を深めるのに役立ちますから、結果的にはそれぞれの政策を打ち出すことにつながるはずです。
── 例えば、サンフランシスコ市は実質的にロボットによる配達を禁止しました。こうした規制は、市のレベルで行われるべきなのでしょうか。またこれからのモビリティについて、市や州、国はどのように役割を分担すべきだとお考えですか。
イノベーションが公共の安全に関わってくる場合には、多様なアプローチが必要となります。誰が通行権を得るのかといった決定は、歩道や車道の縁石における規制と同様、市のレベルで担当すべきでしょう。これが一般道路やハイウェイの安全性に対する規制になると、州のレベル問題です。
また、車両の標準化に責任を持ち、自動車メーカーにそれを遵守させるのは、国のレベルで行う必要があります。
ですから、モビリティに関する政策は、これらの3つのレベルを考慮しなければなりません。市のレベルでは、縁石のインフラや駐車場の建物についての権限を持ち、各都市が全く異なった対応をすることもあり得ます。ワシントンとサンフランシスコとシアトルで、スクーターに関する政策が異なってもいいのです。モビリティの破壊とイノベーションについて、いろいろと経験を積んだ市は、無謀な参入やその影響を抑えるために規制をかけられるようになっています。参入してもいいが、最大制限を設ける、といった方法です。
今夏も、ライドシェアの影響を多方面から研究するために、ドライバー数を制限して導入するといった動きも見られました。ニューヨーク市では100万ドル以上のコストをかけて、その影響を調査したのです。また、駐輪ドックのない自転車やスクーターのシェアサービスの認可についても、この手の制限を設けて町中にスクーターが散らばるのを防いでいる例があります。
こうしたシェアサービスは、数を増やすことで成り立つビジネスモデルを描いていますから、数を制限する市との間には緊張関係も生じますが、その一方で、政策は進化しています。当初は、テクノロジー側が先走りしていきなり路上を走りはじめ、政策側はどう対応していいのかわからず苦慮するという事態が多く見られました。しかし、この5年ほどの間に、市はどのようにテクノロジー企業に対処し規制を行っていくのかを学んできました。
[ 脚注 ]
- *1
- モビリティ: 移動手段、乗り物、移動性、移動の簡便さのこと