No.023 特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

No.023

特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

テクノロジーによるSDGsへの貢献

クロストーク ”テクノロジーの未来を紐解くスペシャルセッション”

テクノロジーによるSDGsへの貢献

山﨑 敦義
TBM 代表取締役 CEO
平本 督太郎
金沢工業大学 SDGs推進センター長
BoPグローバルネットワークジャパン 代表理事

地球温暖化や自然破壊、貧困、資源の枯渇など…。全世界が一丸となって解決に取り組むべき問題が山積している。こうした問題の解決なくして、人類や地球に未来はない。そして、問題解決に向けて国連がまとめた取り組み目標が「SDGs(持続可能な開発目標)」である。だが、問題が大きすぎて、多くの人はSDGsを他人事のように考えてはいないだろうか。実は、SDGsは、新たなテクノロジーの開発を後押しし、新ビジネスを生み出すテーマの宝庫でもあるのだ。画期的な新素材を基にしたビジネスをSDGsの理念に沿って展開するスタートアップ企業、TBM 代表取締役 CEOの山﨑敦義氏と、経営学者の立場からSDGsに関連した新ビジネスの創出を研究している金沢工業大学SDGs推進センター長の平本督太郎氏が、SDGsの目標達成への、テクノロジーを活用し、新ビジネスを創出することによる貢献について議論を交わした。

(構成・文/伊藤 元昭 写真/川合穂波〈アマナ〉)

人類を豊かにしたテクノロジーは、人類と地球の存続にどう貢献するのか

山﨑敦義氏

── これまで人間は、テクノロジーを利用して文明を発展させ、豊かになってきました。ただし、テクノロジーの力を乱用した結果、様々な社会課題が顕在化し、その解決を目指してSDGsに取り組んでいます。これからテクノロジーは、どのような点に留意して生み出し、利用していったらよいのでしょうか?

山﨑 ── SDGsの17の目標の中に、「つくる責任、つかう責任」という項目があります。世界規模の人口増加と資源の枯渇は大きな課題であり、その解決に向けて、作ったモノを繰り返し有効利用する循環型社会の仕組みを確立する必要があると考えています。その実現には、新たなテクノロジーの創出とその活用が必要不可欠になると考えています。

私たちが製造し、利用方法を提案している新素材「LIMEX」は、これを使って作ったモノが使われた後に回収され、様々な形で再利用できます。さらに、原材料の調達から、生産、消費、回収、再利用に至るライフサイクルの中で排出されるCO2を可視化しています。これからは、多くの工業製品で、こうしたことを意識したものづくりを実践していくことになるでしょう。

平本 ── テクノロジーは、世の中の進化を大きく後押しする存在であることは間違いありません。私が所属する大学は工業大学なので、学内で様々なテクノロジーを研究しています。そして、研究する際には、開発した技術を社会実装することを常に意識しています。想像力と社会実装力は双子のような関係であり、実際に誰にどのように使われるのかを想像しながら研究し、研究成果を実際に世の中で使いながら、結果をフィードバックすることで、社会がより強く求めるテクノロジーへと磨き上げていくという方法を取っているのです。

こうした方法は、SDGsを実現するための技術開発と社会実装でも重要になってくることでしょう。また、テクノロジーを生み出す際には、対話による想像力の拡張も大切になってきます。対話を繰り返しながら、ユーザーの利用シーンや途上国の状況を想像し、世の中に出した後にどのような好影響があるのか、逆にどのような悪影響が発生してしまうのかに想いを巡らせながらテクノロジーの姿とその利用法を考えなければなりません。

山﨑 ── その通りですね。これまでは、製品を開発・生産する際には、使い心地や価格など消費者個人の目線を優先していました。しかし、これからは社会視点で、製品の投入により社会にどのようなインパクトが及ぶのかをより意識した、技術開発、ものづくりが求められることでしょう。テクノロジーを利用し、工業製品を作り出している企業の側に、こうした意識が定着していけば、自然とSDGsに貢献するテクノロジーのあり方が明確になってくると思います。私たちは、そこをしっかりと目指していきたいと思います。

平本 ── 新型コロナウイルス感染拡大による大きな変化によって、その対策に関連する取り組みも含め研究開発や事業計画を大幅に前倒して進めている技術がたくさん出てきています。例えば、金沢工業大学ではANAのスタートアップ企業であるAvatarin(アバターイン)株式会社と連携して教育プログラムの共同研究を行っています。この研究に用いている遠隔操作ロボット*1の技術は、もう少し先の将来にヒットすることを想定していました。しかし、コロナ禍による外出自粛を受けて、現在急速に需要が高まっています。

近年、日本政府は、「ムーンショット型目標*2」と呼ぶ、人々を魅了する目標を掲げて挑戦的な研究開発に取り組む制度を施行しています。まず将来のビジョンを描き、そこに必要な技術を洗い出して、要所にリソースを集中投下していこうというものです。アバターインの技術も、分かりやすい未来のビジョンを提示できていたため、コロナ禍による社会の状況変化によるステークホルダーの期待に応えられているのだと思います。これからの科学技術の開発では、社会実装したときのインパクトを想像する力を高め、社会実装できる計画を準備して開発を進めるやり方が求められるようになると思います。

ANA AvatarANAが提供する距離、身体、文化、時間、あらゆる制限を超える瞬間移動手段。ロボティクスや物を触ったときの感覚を疑似的に伝える技術等を用い、離れた場所にあるAvatarを遠隔操作して、あたかもそこに自分自身が存在しているかのようにコミュニケーションや作業を行うことができる。
http://ana-avatar.com
ANA Avatar

[ 脚注 ]

*1
遠隔操作ロボット: アバターインが扱っているのは、遠隔地にいる人が、あたかもすぐ側にいるかのように感じられ、動くアバターロボット。コロナ禍で、リモートワークなどの活用が広がり、より密なコミュニケーションを遠隔地間で取るための利用が想定されるようになった。
*2
ムーンショット型目標: 2020年1月、内閣府が開催した「48回 総合科学技術・イノベーション会議」の中で設定した、超高齢化社会などの社会課題の解決を目指して政府が設定した、人々を魅了する野心的な目標。挑戦的な研究開発を推進することを目指したもの。
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