No.024 特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

No.024

特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

Visiting Laboratories研究室紹介

街の未来を予測し、よりよい都市計画の方法を探る

2020.11.20

関西大学 環境都市工学部 都市システム工学科 社会資本計画研究室

関西大学 環境都市工学部 都市システム工学科 社会資本計画研究室

少子高齢化が進み、近未来の日本の社会環境が、大きく変貌していくことは確実だ。しかも、コロナ禍によって人々の生活様式が激変している。こうしたメガトレンドと予期せぬ大きな出来事は、日本人の暮らしはもとより、街のあり様も変えていくことだろう。これからの時代、より多くの人々が幸福感を感じながら暮らしていける街とはどのようなものなのか。都市計画の効果を的確に評価し、情報システムを駆使して街の未来を解析し、住民が求める街を実現する方策を追求しているのが関西大学の北詰恵一教授である。よりよい街づくりを考える同氏の研究室を訪ね、その研究の意義とおもしろさを聞いた。

(文/伊藤 元昭 撮影/豊崎 淳〈アマナ〉)

第 1 部:関西大学 環境都市工学部 都市システム工学科 社会資本計画研究室 教授北詰 恵一

北詰 恵一教授

住んでいる人の困りごとを未然に防ぎ、よりよい街づくりを目指す

Telescope Magazine(以下TM) ── 北詰先生が都市計画の研究に取り組まれた経緯を教えて下さい。

北詰 ── 大学生の時から、街の中で意外なモノを見つけたり、景色がきれいな場所を見つけたりすることが好きで、街自体に関心がありました。そして、大学2年生の秋になり、進む学科を選ぶ際に都市計画を学べる土木工学科を選びました。私が通っていた大学には、土木工学科の他にも、建築学科にも都市計画を扱う研究室があり、さらには都市工学科という、そのものズバリの学科もありました。ですが、私は、都市を実際に作り上げていく視点から都市計画に取り組みたいと思い、土木工学科に進みました。

TM ── 都市計画に携わっている人は、それほど多くないのではと思います。そもそも、どのようなことをしているのでしょうか。

北詰 ── 多くの場合、都市計画は、政府や自治体が行政の一環として行っています。街は、土地の上に多種多様な建物や施設を作ることで生まれます。その際に、小学校の隣に歓楽街があったり、庭付き一戸建ての南側に高層マンションが建ったりしてしまうと、様々な不都合や軋轢が起きてしまいます。こうした無思慮な行動の結果生じた他者への不利益は「外部不経済」と呼ばれているのですが、思惑が異なる個々の企業や個人だけに土地の使い道を任せてしまうと、こうした外部不経済が生まれがちです。そこで、好ましくない状態を未然に防ぐため、公的機関による調整が必要になってきます。その際、どのような計画、ルール、法律に基づいて調整したら、円滑によい街を作っていけるのかを考えるのが都市計画の目的です。

TM ── 都市計画は、政府や自治体が策定し、実行していくわけですね。それを学問として扱う研究者は何を研究しているのでしょうか。

北詰 ── 私たちは、行政が都市計画を策定・実行していく際の理論、考え方の筋道を作り出す役割を担っています。ただし、研究室にこもってひたすら理論を考えているわけではなく、住民の意見を調べて集約したり、場合によっては計画作りに参加したりしながら、住民が求める都市計画のあり方を探求しています。

TM ── 土地の使い道は、まずはお上の意向ありきというわけではなく、住民の意志が反映されるようになってきているのですね。それは最近のことなのでしょうか。

北詰 ── 都市計画への住民参加の形態には、住民が行政にすべて任せる段階から始まり、住民の声に行政が耳を傾ける段階、意見を政策に反映させる段階、最終的には住民自らが都市計画を担う段階まで、8段階のレベルがあるとされています。住民の声に行政が耳を傾ける形態は古くからあるものですが、住民がある程度まで、街づくりに本格的に参画する例が出てくるようになったのは21世紀に入ってからです。

TM ── 住民参加は、ごく最近のことなのですね。そうした住民の声を反映させた都市計画がされるようになったのは、行政が成熟した証のような感じがしますね。

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