No.022 特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた:我々はどこから来て、どこへ向かうのか

No.022

特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた。我々はどこから来て、どこへ向かうのか。

Visiting Laboratories研究室紹介

薄くて軽く、透明で長持ちする太陽電池で、宇宙と地球の暮らしを変革する。

2020.02.28

東京理科大学 理工学部 電気電子情報工学科 杉山研究室

東京理科大学 理工学部 電気電子情報工学科 杉山研究室

宇宙に第二の地球を造る「スペース・コロニー」構想。人類の宇宙進出を叶え、また人口爆発を解決する方法として、かねてより研究が続いているが、その実現のためには、まだ多くの課題が山積している。そんななか東京理科大学は、スペース・コロニーの実現のためにも、また地球上のさまざまな問題解決のためにも有用な技術の研究開発を、産学官の連携によるオープンイノベーションで実現するための場として、スペース・コロニー研究センターを立ち上げた。今回はそのセンターの中から、創・蓄エネルギー技術チームの杉山睦教授と、スペースアグリ技術チームの勝又健一准教授に話を伺った。

(インタビュー・文/鳥嶋真也 写真/黒滝千里〈アマナ〉)

前編:東京理科大学 理工学部 電気電子情報工学科 教授 杉山 睦

杉山 睦教授

薄くて軽くて透明で、1万年もつ太陽電池

Telescope Magazine(以下 TM) ── はじめに、創・蓄エネルギー技術チームの役割について教えてください。

杉山 ── 創・蓄エネルギー技術チームは、「エネルギーを創り蓄える」ということに焦点を当てた研究をしています。たとえば、すでに人工衛星などで使われている太陽電池の性能や能力の向上は、研究の大きな柱のひとつです。また、宇宙空間では太陽光が当たるときと当たらないときがありますので、電力を安定して作り続けるために、「熱」を使った発電も研究しています。

さらに、作った電力を貯めておく「充電・蓄電」の技術も研究しています。充電というと、スマホのバッテリーでもおなじみですが、バッテリーは寿命が短く、効率も良くないので、運動エネルギーを使った「フライホイール」という充電・蓄電方法を研究しています。

TM ── その中で、杉山研究室ではどのようなことを研究しているのですか。

杉山 ── 私たちの研究室では太陽電池の研究をしています。太陽電池は自家発電などでもおなじみで身近な存在ですが、宇宙に打ち上げるとなるとコストが問題になります。そのため、私たちはフィルム状の太陽電池を開発しています。すでに開発に成功したものは紙と同じくらい軽く、発電量そのものは地球で使われているものとあまり変わりませんが、質量あたりの発電量は50~100倍にもなります。

また、透明な太陽電池も開発しています。透き通ったフィルム状になっているので、宇宙船や宇宙ステーションの窓など、どこにでも貼り付けて発電できます。

透明な太陽電池
紫外線を吸収して発電する透明な太陽電池。酸素と結合することで透明になった、酸化ニッケル(NiO)と酸化亜鉛(ZnO)という素材を使用している。
東京大学 物性理論研究室

TM ── そんなに薄くて軽いと、破損や耐久性が心配になりますが、大丈夫なのでしょうか。

杉山 ── 耐久性は大きな課題です。たとえば、現在の人工衛星に使われている宇宙用の太陽電池は10年前後で壊れてしまいます。これは、宇宙空間には強い放射線が飛び交っていることと、日が当たっているときとそうでないときの寒暖の差が大きいことが原因で、太陽電池に限らず、カメラなどの半導体を使った機器はもれなくその影響を受けるため、あまり長持ちしません。

人工衛星なら壊れても次の新しい機体を打ち上げれば済みますが、スペース・コロニーで使う太陽電池は大面積になりますので、壊れたからといってすぐに新しいものを打ち上げることができません。そのため、私たちは300~500年もつ太陽電池を開発しました。また、いま研究しているものでは、1万年くらい壊れないものもあります。

TM ── そんなにもつんですか!? いったいどうやって実現したのですか。

杉山 ── 秘密は「逆転の発想」にあります。従来の太陽電池や半導体は、原子を一つひとつ、規則正しく精密に並べて作っています。そこに強い放射線が当たると、その並べたものが崩れるので壊れてしまいます。そこで、私たちはあえて規則正しくせず、”ぐちゃぐちゃ”の状態で作ります。これなら放射線が当たっても、元からぐちゃぐちゃなので、性能に大きな影響が出ません。

半導体に強い放射線が当たると、その半導体を構成する原子が飛び出すことが知られています。通常なら、原子が飛び出したことで、その半導体は壊れたり性能が劣化したりしますが、私たちが開発したものは、飛び出した原子が、別のぐちゃぐちゃの半導体に入り込んで、あたかも修理するような役割を果たすので、全体として壊れにくい太陽電池にできるのです。

TM ── そのような発想はどのようにして生まれたのですか。

杉山 ── もともと日本は、太陽電池の分野で大きなシェアを握っていましたが、現在は中国に奪われています。日本はとにかく最高の製品を造ろうとして、原子を正確に並べることに力を注いでいましたが、中国はそこまでこだわらず、安くていいものを造り出したことが、その背景にあります。

そこで私たちは、「どうしたら太陽電池をとことんまで安くできるのか」ということを考え、この「あえて適当に造る」という発想を生み出しました。そのときは宇宙で使うことは念頭にありませんでしたが、そのあと研究を進めるなかで、この技術を宇宙で使うと壊れにくい太陽電池になることに気づいたのです。たまたまうまくマッチした結果でした。

Cross Talk

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第1回 第2回 第3回

連載02

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過去や未来へ旅しよう!タイムマシンは実現できるか?

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