No.021 特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

No.021

特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

Expert Interviewエキスパートインタビュー

MUTEKはデジタルの融合を解いて、どう再配備するかに関わっている。

2019.11.29

アラン・モンゴー
(「MUTEK」創業者、アーティスティック・ディレクター)

MUTEKはデジタルの融合を解いて、どう再配備するかに関わっている

20年前にモントリオールでスタートし、現在は世界6都市でも開催されるイベント、MUTEK(ミューテック)。電子音楽を中心に、デジタル・クリエーションのもっとも実験的な先端をとらえ続け、同時にクリエーターの育成や地元コミュニティーとのつながりを尊重する社会的使命も担おうとするフェスティバルだ。創設者のアラン・モンゴー氏は、加速的に進んできたデジタル融合の次のステップを見据えている。モントリオールの拠点でMUTEKの成り立ちと現時点を聞いた。

(インタビュー・文/瀧口範子 写真:Maurizio Solis Broca)

アラン・モンゴー氏

── MUTEKが生まれたきっかけを伺いたいと思います。もともとは研究者だったそうですね。

MUTEKの発展は、私自身の歩みに結びついていると言えます。もともと私はコミュニケーションの研究者で、インタラクティブ・アートに関する論文を書いて博士号を取りました。その後大学でマルチメディアを教え、また自分でも作品を作っていました。当時の研究ラボのメンバーは、マルチメディア制作の最初の歩兵集団のようなものです。「マルチメディア」はその後1990年代半ばに「ニューメディア」となり、今日では「デジタル・アート」と呼ばれていますが、指している内容は同じで、要は「新しいテクノロジーの進化に伴って起こる、アーティスティックな実践の発展」に関わるものです。

── 研究者が、そのうちイベントを企画するようになったわけですか。

作品を世界各国の学会などで発表するうちに、色々なフェスティバルがあることがわかりました。そのうち、1980年代末に生まれたエレクトロニック・アート関連のISEA(旧名:Inter-Society for the Electronic Arts )という国際シンポジウムが、1995年と1997年にモントリオールで開催されるのを組織し、オーガナイザー側に専念することになりました。

映画関連のMontreal International Festival of New Cinemaというフェスティバルにも関わり、その中でまだ黎明期にあったニューメディアのセクションも担当しました。ニューメディアが一体何なのかも知られていない時期でしたが、「メディア・ラウンジ」と名付けたスペースで没入型の体験ができる環境を作り、あらゆるタイプのデジタル文化が目前で展開されるようにしたのです。

そこで目指したのは、ニュー・メディア自体を見せることではなく、こうした環境を与えればデジタル・クリエイティビティーがいずれ映画や映像制作といかに交わっていくかが自ずと示されるだろうということです。ただ、当時はコンピュータの処理能力が限られていて、音のテクノロジーの方が映像制作より進んでいた。だから、多くは電子音楽をビデオ、イメージ、音を使って聞かせたというものになりました。

── そこでは、映像関係者と音楽関係者が混じっていたわけですね。

多様なパフォーマンスがありました。フェスティバル自体は映画に関するものだったので、音楽だけをやるわけにはいきません。ですから、ビデオ制作者にはぜひミュージシャンとやりとりしてくれと伝えていました。VJ(ビデオ・ジョッキー)文化もここから生まれています。当時はまだCD-ROM時代で、CD-ROMステーションを作ってプロジェクトを見せました。

いずれこれがDVD、VRなどへと発展するわけですが、生まれたばかりの文化を展示するという流れはこの時作られたと言えるでしょう。その後、Ex-Centrisというニューメディアの複合施設がモントリオールに生まれ、ここで音楽や音に関連したMUTEKというイベントを担当したのです。これは開放的な体験でした。

というのも、映像に関わるニューメディアは、70年代の映画世代、80年代のビデオ世代、90年代のニューメディア世代と3つの世代層を含んでいて、混じり合わせるのが実は難しかった。ところが、MUTEKはまさにネイティブなデジタル文化を見せる、モントリオールで初めてのイベントになったのです。アーティストが新しいツールやテクノロジーを目前で実験する、デジタル文化のライブ・アクションだという一点に集中すればよかったのです。

アラン・モンゴー氏

── それが2000年のことですね。

そうです。Ex-Centrisでは、映像に的を絞ったニューメディアのイベントと音楽ベースのMUTEKを年2回、交互に開催していたのですが、2001年の9.11直後に開催されたニューメディアのイベントに人が集まらず、大きな損失を出したために中止となりました。その後MUTEKではより映像も取り込むようにしたのですが、今は音楽、音、映像制作を含む広いデジタル・クリエーションのフェスティバルとして捉えています。

── モントリオールのデジタル文化の厚みが、MUTEKの背後にあることがわかります。現在のパフォーマンスでは、同じアーティストが音楽と映像の両方を制作しているのでしょうか。

MUTEKで発表されるパフォーマンスは幅広いタイプに及んでいます。今でも音楽だけのパフォーマンスもあれば、ビデオ・アーティストと協働して、AV(オーディオ・ビジュアル)的要素を盛り込むミュージシャンもいて、全体は多様な組み合わせで成り立っています。音楽のスタイルだけをとっても、ノイズのような実験的なものから、ダンス音楽のようなビート中心のものまである。また、MUTEKはいくつかの会場で開催されますが、会場自体もアーティスト作品の一部や一連の流れになることを念頭に置いています。時には、会場に大掛かりなステージ・デザインを施して、映像、照明、レーザーを駆使できるようにする一方で、従来型の劇場で座席に座り、音やイメージ、他のアートフォームの融合をじっくりと見られるようにすることもあります。

MUTEK Montréal 2018でのTundraのライブの様子
画像提供:MUTEK Montréal
2018年のライブの様子
MUTEK Montréal 2018でのROBIN FOXのライブの様子
画像提供:MUTEK Montréal
2018年のライブの様子

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