No.019 特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

No.019

特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

連載02

みんなが夢中になるゲーム。遊ぶだけじゃもったいない。

Series Report

第3回
ゲームはAIの“ゆりかご”である。

2019.3.4

文/伊藤元昭

ゲームはAIの“ゆりかご”である。

ディープラーニング(深層学習)の威力が世界中に広く知られたきっかけは、2016年3月に行われた囲碁棋士イ・セドル氏とDeepMind社の人工知能(AI)「AlphaGo」の対戦だった。勝敗の結果は、イ・セドル氏優位という事前予想を覆して、4勝1敗でAlphaGoの圧倒的勝利に終わった。この対戦後も、DeepMindは自己学習するAI「AlphaZero」を開発し、囲碁、将棋、チェスで人間を寄せ付けない力を示した。こうした一連の取り組みを通じて、DeepMindは強いゲーム用AIを開発したかったわけではない。AI研究者の間では、「ゲームはAIの“ゆりかご”」という言葉が語られている。ルールが明確で、勝敗がはっきりしている知的ゲームを利用すれば、知性を持つ機械を作る技術を磨きやすいからだ。そして、最先端のゲームには、将来多くの分野に展開されるだろう新しいAI技術、さらには人間とAIの未来の関わり方が垣間見える。ゲームをエンターテインメント以外の用途に活用するために行われている試みを解説する本連載。第3回は、最先端のビデオゲームを中心に、そこで使われているAI技術を解説。将来のAIについて考える。

生活や社会活動の中で経験する出来事を単純化して、ルールを明確にし、勝敗をはっきりさせたものがゲームである。将棋は合戦を、囲碁は国の間での領土争いを単純化させたものだろう。だから、歴史に登場する武将や軍師の多くが、こうしたゲームを好んだ(図1)。

[図1] いにしえの武将が囲碁などを通じて戦略眼を養ったように、現代のAIはゲームで知性を磨いている。
出典:Adobe Stock
いにしえの武将が囲碁などを通じて戦略眼を養ったように、現代のAIはゲームで知性を磨いている。

ゲームは、複雑な要素が絡み合う実戦を戦い抜くためのトレーニングの場となる。実戦で失敗すれば大敗につながる大胆な戦略や戦術も、ゲームの中ならば気軽に試せる。もちろん、実戦での勝敗は、ゲームの勝敗に比べればずっと多くの要因によって決まることだろう。それでも、ゲームを通じて磨いた戦略眼や戦術手腕は、実戦の中でも少なからず役立つ。同様の理由から、権謀術数が渦巻く政治の世界、競争の激しいビジネスの世界で、日々何かと戦っている人たちもゲームを好む傾向がある。

囲碁や将棋に比べて現代のビデオゲームでは、ずっと現実に近い状況をプレイヤーが体験できるようになった。歴史シミュレーションゲームならば、用兵だけでなく、人事や領地経営など、より複雑な要素を加味した状況での陣取り合戦が体験できる。ロールプレイングゲーム(RPG)ならば、冒険家や英雄が抱く大志や、仲間の個性を生かしたチームワーク、挑戦と達成感を体験できる。ただし、どんなに複雑なゲームでも、ルールが明確に定義され、勝敗がはっきりとつく点に変わりはない。こうした現実を模したビデオゲームの手法は、航空機のパイロットや医師が判断力や技能を磨くためのシミュレータにも活用されている。

ビデオゲームは、AIやIoTなど情報処理技術を磨くための絶好の実験場になっている。公道を走る自動運転車で状況を判断するAIや、日常生活を送る人の健康状態を見える化できるIoTなどは、極めて複雑な環境下で使われ、効果を示すことが要求されるものだ。こうした最先端の応用シーンで効果を発揮するヒントは、現実に近づいたビデオゲームに使われている情報処理技術の中に見つけることができる。さらに、ビデオゲームは人間がコンピュータと向き合って遊ぶものであるため、人間とコンピュータの未来の関係性も透けて見えてくる。

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