No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

連載02

電子機器から自由を奪う電源コードをなくせ

Series Report

第2回
電力も無線で送る

2018.01.31

文/伊藤 元昭

電力も無線で送る

電気・電子機器の電源コードは、機器の自由を拘束する最後のくびきである。これをなくすことができれば、電気・電子機器はより多くの場所で活用できるようになる。「電力を地産地消する技術」であるエネルギーハーベスティング技術の進歩で、IoT機器を無給電*1で動かせる可能性がでてきた。しかし、その応用は消費電力が1Wにも満たないものが中心。もっと大きな電力を消費するモバイル機器や家電製品、そして電気自動車なども、電源コードなしで活用したい。そこで必要になるのが「電力を無線で伝送する技術」、ワイヤレス給電である。第2回の今回は、ワイヤレス給電の開発動向とその応用先について解説する。

電源コードの撲滅に向けた2つのアプローチ、「電力を地産地消する技術」と「電力を無線で伝送する技術」のうち、連載第2回の今回は、「電力を無線で伝送する技術」について解説する。

近年、ワイヤレス給電と呼ばれる技術の開発と応用が急激に進んでいる(図1)。ケーブルをつなぐことなく充電できるスマートフォンが数多く出回るようになり、電気自動車(EV)の充電への活用も実用化段階に入った。ただし、現時点でのワイヤレス給電には、使い勝手に多くの制限がある。このため、あらゆる家電製品や情報機器の電源コードを撲滅できるわけではない。

[図1] ワイヤレス給電が身近になってきた
Apple社のワイヤレス充電パッド「AirPower」(左)、日産自動車によるEV試作車のワイヤレス充電(右)
出典:Apple社、日産自動車
ワイヤレス給電が身近になってきた

ところが、今、より多くの電気・電子機器に給電可能な、より使い勝手のよいワイヤレス給電技術が盛んに開発されている。実は、ワイヤレス給電技術の開発難易度は極めて高い。ケーブルを使った給電でさえも電力の損失は大きく、大電力を扱う際には危険が伴う。それを非接触で送電しようというのだから、難しいのは当然だ。それでも、わずらわしいケーブルをなくすというメリットが極めて分かりやすいため、技術開発にチャレンジする研究機関や企業は多い。

ワイヤレス給電は一度使えば戻れない

ワイヤレス給電は、一度使ってしまうとケーブルでの給電には戻れなくなる快適な技術である。その電子機器への応用は、まず電動歯ブラシなどの家電から始まり、現在はスマートフォンやスマートウォッチなど、モバイル機器へと広がっている。

ワイヤレス給電も無線技術の一種であるから、データ通信などと同様に、送信側と受信側が一対となり、同じ技術規格に沿っていないと正しく機能しない。電動歯ブラシなどは、歯ブラシと充電台を一対で販売する。このため、機器メーカーが独自技術を採用しても不都合はない。これに対し、スマートフォンなどの充電では、外出先で充電することも想定されるため、技術が標準化されていないと使い勝手が悪くなる。その結果、モバイル機器向けの応用では標準化が進んでいるのだ。具体的な標準については後ほど紹介したい。

そして今、にわかに実用化に向けて動き出した応用が、EVの充電である。EVのバッテリーは、航続距離を伸ばすため大容量化が求められている。しかし、バッテリーの容量は、よほどのブレイクスルーでも生まれない限り、急には大きくならない。だから、電池切れを気にせずEVに乗るためには、外出先でこまめに充電できる充電インフラの整備が欠かせないのだ。とはいえ、充電の度にケーブルをつなぐのでは使い勝手が悪い。そこでワイヤレス給電を使えば、頻繁に充電してもドライバーは苦にならなくなるというわけだ。イギリスやフランスは、2040年にはエンジン車の新規登録をなくすと発表し、中国もEV中心の社会への移行を表明した。こうした世界情勢を受けて、EV用のワイヤレス給電技術の開発が急加速している。

利用シーンに応じてワイヤレス給電技術を使い分け

ひとくくりにワイヤレス給電と言っても、ワイヤレス給電技術には様々な方式がある。送電可能な電力の大きさや距離がそれぞれ異なり、応用適性は異なる。ここでは、4種類のワイヤレス給電技術の原理と特徴を紹介していく(図2)。

[図2] ワイヤレス給電技術の代表的な4方式
出典:ロームの資料を基に筆者が作成
ワイヤレス給電技術の代表的な4方式

「電磁誘導方式*2」は、コイルに電流を流したときに発生する“磁束*3”を送電の媒体に活用するものだ。送信用と受信用、それぞれのコイルを並べ、どちらか1つに電流を流し、もう一方のコイルに達した磁束によって起こる電磁誘導現象を利用して電流を発生させる。送電効率を90%程度まで高めることができるほか、回路構成が簡単で小型化や低コスト化が容易な利点がある。その一方で、送電距離は数mm〜10cm程度と短く、コイル間の位置ずれの影響も大きい。数kWもの大電力を送電できる潜在能力を持つが、実用化しているものの中心は送電電力が20W以下だ。この方式は、モバイル機器やコードレス電話、電動歯ブラシなどの充電などに使われている。

「磁界共鳴方式」は、磁界や電界の共鳴現象*4を送電の媒体に活用するものだ。コイルやコンデンサ*5を組み合わせて、送信側と受信側を共鳴させるための回路を作る。そして、共鳴によって受電側に生じた高周波を整流回路で直流に変換し、電力として利用するという仕組みだ。2007年に、マサチューセッツ工科大学が試作機で動作を実証し、一躍注目が集まった技術である。

磁界共鳴方式は電磁誘導方式に比べて、送電距離を長く取ることができ、位置ずれに対する許容性も高い点で優れている。理論上は、共鳴時の周波数を最適化することで数百mまで送電可能だという。また、1つの送信側コイルで、複数の機器に給電することも可能だ。送信電力は、数W〜数kWと幅広く、送電効率も最大約90%と良好である。コイル間の距離を最適化しないと送電効率が低下するという欠点もあるが、現在、EVの充電用として多くの企業が磁界共鳴方式の利用を検討している。

[ 脚注 ]

*1
無給電: 電力を供給していない状況を指す。
*2
電磁誘導現象: コイルを貫く磁束が変化すると、コイルに電流が流れる現象。
*3
磁束: 磁力の方向と強さを磁力線の束として表したもの。磁力線1本に相当する1単位は1Wb(ウェーバ)であり、これは別の単位で換算すると1kgm2/s2Aに当たる。そして、単位面積当たりの磁束の数を磁束密度と呼び、1単位は1T(テスラ)。これは1Wb/㎡に当たる。
*4
共鳴現象: 同じ周波数で振動する2つのものを近づけて置き、一方を振動させるともう一方も振動するという現象である。同じ周波数の音叉を近くに置き、一方を鳴らすと、音波による空気の振動がもう一方の音叉にも伝わり振動し始めるのと同様の現象を利用する。
*5
コンデンサ: 電荷を蓄えたり、放出したりする機能を持つ電子部品。向かい合う2枚の電極板の間に誘電体を挟んだ構造を採っている。
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