Expert Interviewエキスパートインタビュー
ゲームの中では別の自分になれる。そこで得た経験は現実の自分を変える。
2019.8.30
それまで家に閉じこもりがちだった高齢者が、「ポケモンGO」が生きがいとなり、毎日のように外出して見知らぬ人とも会話するようになったという話が聞かれる。健康維持に向けた日々の運動を促す効果は、家族や医者の働きかけよりも、1本のゲームソフトの方が大きかったということだ。その一方で、世界保健機関(WHO)は、生活に支障がでるほどゲームに熱中する「ゲーム障害」を新たな依存症として認定した。ゲームには、人の心の奥底にまで訴えかける、毒にも薬にもなる何か大きな力が秘められていることは確かなようだ。できれば、この力を上手に使いたい。ゲームを憂うつな気分の心のケアや、日々の生活の中での心のゆとり作りに役立てる取り組みをしているHIKARI Lab(ヒカリラボ)代表の清水あやこ氏に、ゲームに秘められた心に訴えかける力とその活用法について聞いた。
心理学の知見を生かしたビデオゲーム
── 「病は気から」という言葉があります。人を夢中にさせるゲームや笑いなど気持ちを豊かにするエンターテインメントを、医療行為として利用しようとする試みが活発化してきました。ヒカリラボは、いち早くゲームを心のケアに活用する取り組みをしてきた企業であると聞いています。どのような活動をしているのでしょうか。
ヒカリラボは、心理ケア・サービスを提供している会社です。オンラインでのカウンセリングと心理ケア用のゲームアプリの提供を中心に活動しています。その他、一般企業へのアドバイザリー業務なども行っています。
オンライン・カウンセリングでは、ビデオチャット・システムを利用して、ネットを介して相手の顔を見ながら進めています。この時、一方的にカウンセリングするだけでなく、表情認識AIを活用して心の状態を数値化し、効果を検証しながら、効果的なカウンセリングを目指しています。一方、ゲームアプリについては、セルフケアの学習等を目的にした「SPARX(スパークス)」というロールプレイング・ゲームを提供しています。また、ゲーム制作会社であるfavary*1が開発した「問題のあるシェアハウス」という恋愛ゲームの監修をしました。
── SPARXと問題のあるシェアハウスは、それぞれどのようなゲームなのですか。
SPARXは、認知行動療法という科学的裏付けを持つ治療法に基づいて、ニュージーランドで開発されたゲームです。ネガティブな感情が蔓延している世界に自分がヒーローとして飛び込み、その世界を救う過程で経験する出来事と行動を通じて、自然と認知行動療法の知識を学べる内容になっています(図1)。認知行動療法というのは、人の心と考えや行動が密接に関連していることを前提にして、適応的な考えや行動を促すことで心のケアを目指す心理療法です。とても簡単に言うと、たとえば、コップに水が半分入っている様子を見たとします。この時、「半分もある」と思うか、「半分しかない」と思うかで、気分は変わってきます。SRARXのストーリーでは、生活の中で、ゆとりのある適応的な考え方ができるようになるように導くような内容になっています。
一方、「問題のあるシェアハウス」は、日々の生活や人間関係の中で抱えがちな悩みやストレスを解消するための考え方や行動を、ゲーム中で恋愛対象となるキャラクターの言葉などを通じて身に着けることができるゲームです。好きなキャラクターを選び、そのキャラクターとの恋愛を楽しむ中で、日常的な心理ケアの知識も一緒に学べる内容になっています(図2)。
画像提供:株式会社favary
ゲーム中で、厚生労働省が公開しているストレスチェックや心理クイズもでき(図3)、心理にまつわる豆知識を学ぶこともできるようになっています(図4)。女性向けのゲームなのですが、恋愛対象として女性も選ぶことができて、セクシャル・マイノリティーの方も幅広く楽しめるように工夫しています。
[ 脚注 ]
- *1
- 株式会社favary:http://favary.co.jp