No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

連載01

デジタル時代で世の中はどう変わるのか

Series Report

第3回
デジタル化で生まれたウーバライゼーション ──
産業構造の変革

2018.02.28

文/津田 建二

デジタル化で生まれたウーバライゼーション ── 産業構造の変革

ウーバー(Uber)はアプリケーションソフトウエア企業だが、その登場によりタクシー業界はハチの巣をつついたような大騒ぎになった。ウーバーは、クルマを運転して誰かを運ぶことのできる人と、クルマはないが遠方へ行きたい人を結び付けるアプリを提供している。タクシーの代わりに、一般のドライバーが見知らぬ人を移動させる手段として、すでにアメリカの一部では定着している。ウーバライゼーション、あるいはウーバー化という言葉は、新たなビジネスモデルを持つ企業が突然に参入し、既存の業界に変革をもたらすことを指す。これにより、大企業といえども自らの業界に安住していられなくなりつつある。このウーバー化を生み出すことになった要因は、デジタルトランスフォーメーション*1だ。ここではウーバー化の現状を紹介し、これから企業はどのように対処していかなければならないのかを、論じていく。

ウーバーのアプリ(図1)を開くと、現在地の地図が表示され、近くにいる乗車可能なクルマの位置が示される。もし、東京駅の近くに自分がいて、泉岳寺まで行きたいとしよう。東京駅から泉岳寺と入力すると、そこまで連れて行ってくれるクルマとその運転手の名前、料金が表示される。その料金に納得いったなら、OKボタンを押せばいい。5分後くらいに迎えに来てくれる。これがウーバーを使ったカーシェアリングである。

[図1] ウーバーのアプリを開くと地図が現れる
ウーバーのアプリを開くと地図が現れる

このシステムは、行き先が羽田空港のように人が集まる場所だと、一緒に乗りたい客がほかにもいる可能性がある。このため、一人で乗るだけでなく、他の乗客も乗せた場合は割安になり、その料金も示してもらえる。しかも、一人だけで乗る場合でも、料金がタクシーよりも安いため、タクシー業界が猛反発することになった。

相互に評価する

さらにウーバーのシステムは、ドライバーも利用者も共に登録していなければ利用できない。乗せた乗客がドライバーを評価し、ドライバーも乗客の態度を評価する。態度の悪い乗客やドライバーはセンターのデータベースに登録される。市場経済の原理で、態度の悪い乗客やドライバーは利用しにくい状況に追い込まれる。このため、安全性はタクシーよりもむしろ高い。しかも乗るときに金銭のやり取りはない。だから、犯罪は起こりにくい。ドライバーも乗客も安心して使うことができる。

日本では、個人がクルマに他人を乗せ料金を徴収することは、法律で認められていない。そのため、アメリカのビジネスモデルをそのまま日本に持ってくると、いわゆる「白タク」になってしまう。これはタクシー業界を守るための法律なので仕方がない面もある。そこでウーバーは、日本の法律に抵触しないように、まずはハイヤー会社と協力して、ハイヤー料金でサービスをはじめた。当然、消費者から見るとメリットは少なく、単なる実験としか思えない。

バスや公共交通機関の少ない地方こそ必要

しかし日本には、バスもタクシーもないような過疎地域がある。また、いわゆる「流し」のタクシーがほとんどいない地域でタクシーを呼ぶと、「お迎え料金」を別途請求されたり、迎えにきたタクシーのメーターがすでに倒されていたりすることもある。こういった地域では、高齢になっても自ら運転せざるを得ないだろう。近年、高齢者の運転による事故が社会問題となっているため(参考資料1)、高齢者から運転免許証を取り上げようとする家族もいる。しかし、移動手段を奪われ、外出する機会が少なくなると、認知症になりやすくなるという問題も起きる。そのため、公共交通機関の少ない地域こそ、ウーバーのような安価な移動手段が必要ではないだろうか。高齢者がアプリを使いこなすことについては、いささかハードルが高い面もあるかとは思うが。

いずれは日本もウーバーを受け入れ、運輸業界を世界との競争にさらさなくてはならないだろう。

[ 脚注 ]

*1
デジタルトランスフォーメーション: 第1回:デジタル化とは何か 参照
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