No.021 特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

No.021

特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

連載02

ブラックボックスなAIとの付き合い方

Series Report

第2回
ブラックボックスとのよりよい関係を探る

2019.9.30

文/伊藤元昭

ブラックボックスとのよりよい関係を探る

人工知能(AI)は、利用される環境で起きることを学んで、刻々と機能や性質を変えていくことができる。これまでの機械にはなかった優れた特徴ではあるが、困った状況を生み出す。AIを搭載した機器を作るメーカーが、機能や信頼性、安全性を保証しにくくなるという点だ。市場投入後に故障や事故が起きた際には、その責任の所在が不明確になる。しかも、現在のAIは、判断を下すプロセスがブラックボックス化されているため、原因追及は混迷を極める。それでも、自動運転車やロボットなどの技術は着々と進化し、AIによる判断によって動く機械の実用化が迫っている。従来の工業製品とは全く異なる特徴を持つAI搭載機器を、ユーザーが不安を抱えることなく、どのように活用したらよいのか。ブラックボックス化したAIが実用化することで抱える課題と、その解決に向けた動きを追っている本連載。第2回は、分かり合えない存在であるAIとの適切な付き合い方を模索する動きについて解説する。

言葉も通じないし、何を考えているかも分からない。それでいて、仕事中は黙々と働き、他の誰よりも優秀。もしも、あなたの職場にこんな同僚が入ってきたら、どう感じるだろうか。人とAIが共存する近未来には、様々な職種の職場で、このような思いを抱く人が増えることだろう。

人とAIが同居する近未来

AIの発達によって、職を奪われてしまうことを心配する人は多い。ただし、現実には、一般的な職場では、AIの導入によって職場の人員が減ることはあっても、人間の仕事を完全に置き換えてしまうことはないだろう。世の中の仕事は、AI向きの作業と人間でなければこなせない作業が、複雑に織り重なってでき上がっているからだ。このため、AIと人が共存して働き、これまでよりも価値が高く、高効率な仕事をしていくことになるだろう。近未来に起きることは、AIしかいない職場が生まれるのではなく、人とAIが共存する職場が生まれるということだ(図1)。そして、いかにAIと人が協力して、仕事を円滑に連携していけるかという点が問われることになるだろう。

[図1]近未来は、人とAIが連携して仕事をこなす時代がやってくる
Photo: Shutterstock.com
近未来は、人とAIが連携して仕事をこなす時代がやってくる

実際、どんなに先進的といわれるスマートファクトリーでも、完全自動化による製品の生産をしているところはない。人とAIが下す判断を基に制御されたロボットが同居し、役割分担しながら製品を作っているのが普通だ。医療現場も同様である。AIによって、医師が見逃してしまうような病巣をレントゲン写真から見つけられるようになった。最適と思われる治療方針をAIが提示することも可能になった。しかし、最終的に「病気である」という診断を下し、治療方針を裁可する役割は、責任ある医師の仕事として確実に残る。AIは、人を支援するパートナーとしての役割を担っているのだ。

こうした先進的AIの活用方法は、様々な応用へと広がっていくことだろう。買い物を支援するAIや介護ロボットなど、より身近な場所で人とAIが共存していくことになりそうだ。

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