No.024 特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

No.024

特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

Expert Interviewエキスパートインタビュー

あらゆる社会インフラに向け、オープン思想でロボットの民主化を目指す

2020.10.20

深堀 昂
(avatarin株式会社 代表取締役 CEO)

あらゆる社会インフラに向け、オープン思想でロボットの民主化を目指す

ロボットは、これまで人間の代わりに仕事をするものと考えられてきた。ところが、ロボットを人間の化身、すなわちアバター(Avatar)として扱うという考え方が出てきた。ANAホールディングス発のスタートアップ企業アバターイン(avatarin)は、アバターロボット「newme」を開発、人間の拡張として扱い始めた。2020年4月に創業した同社は、人間が直接、相手と会えない状況であれば、分身としてのアバターロボットで相手に会いにいき、コミュニケーションを交わす社会を目指している。まさに新型コロナウイルスを前提とするニューノーマル時代に向いた技術であり、withコロナ時代のハピネスを実現する回答のひとつと言える。同社CEOの深堀昂氏にアバターロボットの具体的な設計思想と未来像を聞いた。

(インタビュー・文/津田建二 撮影/猪飼ひより〈アマナ〉)

深堀 昂氏

── まず、アバターロボットとは何でしょうか。これまでのロボットとは、何が違うのでしょうか。

私たちの考えるロボットは、人の仕事を代行するものではなく、人の能力を拡張するものです。新型コロナの影響に代表されるような、人に会いに行けないシチュエーションで、自分の代わりにアバターロボットが対応するのです。これまでのロボットを見ますと、ビルの受付やデパートの買い物案内など、人間が行っていた仕事を代行しています。つまり人の置き換えにすぎません。

アバターロボットは、人の置き換えではなく、人の拡張というか、自分が行けない場所での対応を可能にする存在です。例えば、観光案内所にアバターロボットを置いておけば、小さい子供がいて働きに行くことができない女性でも、アバターロボットを通して、英語で外国人を案内するような仕事ができるのです。アバターロボットは、自宅からパソコンで操作します。

2019年11月には、三菱地所が大手町の外国人向け総合観光案内所にアバターロボットを置き、遠隔地にいるスタッフがアバターロボットや照明装置を操作して、観光案内サービスを提供する実証実験を行いました(参考資料1)。

アバターロボット newme(ニューミー)
newmeにアバターインすることで、名前の通り「新しい私」として、景色を見たり、誰かと触れ合ったり、さまざまなコミュニケーションをとることが可能になる。
深堀 昂氏
アバターロボットnewmeのスペック アバターロボットnewmeのスペック

アバターロボットnewmeのスペック
newmeは、これまでに行われた各種実証実験の結果を元に、高画質、首振り機能、折り畳み式、軽量化、カスタムデザインなど、社会への普及に必要な機能を備えている。

アバターロボットを通して取材を受けることもあります。最近、記者の方にアバターに入っていただき、このオフィスで取材を受けました。ちょうど新型コロナがパンデミックになっていましたから、直接会うことが不可能になり、オフィスにあるアバターの1台を記者の方に提供するという形で、インタビューをしていただいたのです。アバターロボットの使い勝手や接続のアクセスまで記事には書かれていましたね。

アバターロボットnewmeの動画

── アバターロボットを手がけるようになった経緯を伺わせてください。

2016年4月ごろ、当時ANAのマーケティング部門にいた私は、北米でのANAの認知度を上げようと、テクノロジー系のXPRIZE財団とのタイアップを狙って、マーケティングの企画を持ちこむために出張しました。そこでやり取りしている時に「10億人の生活を変える」というテーマを6か月間で考えるコンペの話を聞いたのです。すでにシンガポール政府のチームやデロイトなども、コンペに参加していました。当時のマーケティング部門としては業務外だったのですが、私たちもこのコンペに参加したいと思い、同僚の梶谷 ケビン(現avatarin株式会社 取締役COO)に声をかけました。ここで考えついたのがアバターロボットです。

テーマが10億人の生活を変えるという課題でしたので、人間のスキルを瞬間移動させるモビリティがあればいいなと思いました。例えば、今回の新型コロナウイルスの問題でも、中国の武漢に感染の専門医が行けるようでしたら、感染拡大をもっと早く抑えられたかもしれないわけです。問題を解決できる人は世界中にたくさんいると思うのですが、彼らがその瞬間に、その場所にいないことが問題なのです。感染症だけでなく山火事や自然災害、テロなどの問題に対して、その瞬間に、その場所に行けるのであれば、問題解決は早まるはずだという確信を持ちました。

物理的に最も速い移動手段は光しかありません。人間の意識だけを光の速度で送ることができればいいのです。どのような条件の時に、それが可能かを考えていました。当時のXPRIZE財団のアドバイザーには、グーグルのレイ・カーツワイル氏やビル・ゲイツ氏など有名な方がたくさんいて、皆さんが協力してくれました。XPRIZE財団創業者のピーター・ディアマンディス氏は、ウイルスの感染が広がった時には専門医が必要だろうと、スキルを瞬間移動させるというアイデアのヒントをくれました。

こういった経緯で、人間のスキルを瞬間移動できるインフラを作りたいと思うようになりました。結果的にはANAが得意な飛行機を使わない移動手段になるのですが、このコンペでグランプリを取ってANAに予算をつけてもらい、有志から部署に格上げしてスピンアウトに至りました。その後、ANAを退職し、2020年4月1日に新会社アバターインを設立しました。アバターインのインは動詞として使います。ログインする、という言葉がありますが、アバターに入るという動詞を意味します。ですから、当社のウェブサイトも「avatarin.com」としています。

TELESCOPE Magazineから最新情報をお届けします。TwitterTWITTERFacebookFACEBOOK