No.019 特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

No.020

特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

Expert Interviewエキスパートインタビュー

勝てる競争戦略を考えるためには「好き嫌い」を軸に据えること。

2019.5.20

楠木 建
(一橋ビジネススクール 教授)

勝てる競争戦略を考えるためには「好き嫌い」を軸に据えること。

若手ベンチャーによる起業がブームとなり、新しいビジネスが次々と生まれている。なかでもAIをからめたIT関連ビジネスは、ものづくりと違って初期投資を抑えられるため起業へのハードルも低い。しかし、ただ簡単に起業できるからと言って、事業をずっと継続できるかと言えばそれほど甘くはない。ひとたび起業すれば、その先に必ず待ち受けているのがシビアな競争である。ビジネスを始めたからには競争に勝たなければ意味がない。AIによるビッグデータを活用する未来社会において、勝つために必要なのが競争戦略だ。では、競争戦略はどのように組み立てればよいのだろうか。一橋ビジネススクールの楠木建教授は、「好き嫌い」を柱にストーリーを組み立てるべきだと説く。そして「好き嫌い」こそが、イノベーションを生み出す源泉にもなるとも語った。

(インタビュー・文/竹林 篤実 写真/黒滝千里〈アマナ〉)

ビジネスの目的は、長期的に儲け続けること

楠木 建氏

── 今は、IT関連の技術力に優れていたり斬新なアイデアがあったりすれば、容易に起業できる環境があります。とは言え大切なのは起業後であり、ビジネスを継続するためには競争戦略が必要だと先生はおっしゃっています。

商売のゴールを端的に表現するなら「長期的に儲けること」です。金儲けには競争がつきものであり、競争環境の中で儲かっていればそれは直接的には顧客に対して、間接的には社会に対して独自の価値を提供できているということです。反対に儲かっていない場合は、顧客に対して意味のある活動をしていないのです。

企業が果たすべき役割として「社会貢献」や「雇用の創出」が叫ばれていますが、これも儲かっていればこそできる話です。株式会社にできる最大の社会貢献は「納税」です。儲かっていなければ納税できないし、給料を払って雇用を守ることもできません。しかも短期的な儲けではなく、長期的に儲け続けることが大切です。一時的に儲かればいいのであれば、社員を泣かせて無理な働き方をさせたり、顧客をだましたりするケースも考えられるでしょう。けれども、そんなビジネスは長続きしませんよね。

競争環境の中で長期的に利益を出すための手段が競争の戦略であり、どうやったら儲かるのかをひたすら追求するのが商売の正道にして王道――。これが私の考えです。つまるところ競争戦略とは、「競争相手との違いをつくること」に尽きます。

── 競争相手とは違う独自の価値を提供できるから、顧客に選んでもらえ、対価も支払ってもらえるわけですね。

もちろんです。ポイントは顧客から選んでもらうことです。顧客に強制的に対価を支払わせるなんてことは、商売ではありえません。税金の支払いを強制するのは国家権力の行使ですから、これに逆らうと違法になります。一方で、商売でお客さんに何かを無理やり買わせてお金を払わせたりすれば、それも犯罪になります。

顧客に支払いを強制できない点に、実は商売の本質的な面白さ、人間が本能的に面白く感じるツボがあるのではないでしょうか。自分がコントロールすることなど本来できない相手が、自分の思い通りに動いてくれる。そして、提供する商品なりサービスなりを選んで買ってくれる。大切なお金を支払ったうえで、それを使って喜んでくれるのです。これは本能的にうれしいことです。

大学祭で模擬店を出している学生たちの動きを見ているとよくわかります。たとえば、サークル仲間で焼きそば屋をやろうと決まった。「朝7時半集合ってなんだよ」みたいな文句を言いながら集まってきて、いやいやながらも作業を始め、9時半ぐらいになるとお客さんが入り出す。

最初は気乗りしなかったのに、焼きそばを買ってもらうとなぜだか急にうれしくなるわけです。隣のたこ焼き屋の売れ行きが気になり出し、誰に言われるでもなく校門まで行って客引きするなど、朝には文句しか言わなかった学生に限って人一倍熱心に働いたりする。そうやって一日がんばったところで、すごく儲かるわけではありません。単純に時給計算するなら、バイトに行ったほうが割りはずっといい。それでも買ってもらえるとうれしいし、面白いのです。この面白さを肌感覚で理解できることが、何より大切な商売の資質です。

── ビジネスは対象とする顧客によって「BtoC」と「BtoB」に分けられますが、競争戦略の考え方もBtoBとBtoCでは変わってくるのでしょうか。

本質的には同じだと思います。BtoBのほうがわかりやすいのですが、基本的には「利他」の考えが根底にあります。つまり自社が提供する価値によって、相手が何らかの利を得る。まず相手を儲けさせて、そのあとで自分が儲かる。これが商売の基本です。明らかに相手に何らかの得があって、相手が価値を得て、その結果として対価を得るのです。この順番を間違ってはいけません。

だから利他的な人でないと商売はできないと思います。本質的に利他的でなければ、自己利益を得ることができない。これが産業資本主義のいいところであり、だからこそ商売は人間を成熟させるのだと私は思います。子どもの頃は誰もが利己的で、自分の都合しか考えないでしょう。人間はどこまでいっても自分が一番かわいいものですが、それでも成熟するにつれて利他的な部分が大きくなっていくのです。

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