Expert Interviewエキスパートインタビュー
食を通して、新しい宇宙ビジネスを創造する
2020.01.31
宇宙開発の枠組みが大きく変わろうとしている。これまでの宇宙開発は、国家プロジェクトが中心だったが、近年、民間企業が主導のプロジェクトも多く見られるようになってきた。また、一昔前は、宇宙ビジネスといえば、ロケットや人工衛星の開発や運用くらいしかなかったが、現在は物流、漁業・農業、資源探査、エンターテインメントなどにも広がっている。このような状況の中で、JAXAは、投資ファンドのリアルテックファンド、コンサルティング企業のシグマクシスと共に食にフォーカスをした「Space Food X」プログラムをスタートさせた。Space Food Xとは、どのような取り組みで、何を目指していくのか。Space Food X副代表を務めるJAXA 新事業促進部の菊池優太さんに話を伺った。
宇宙時代の食を考える
── 「Space Food X」プログラムとは、どういう取り組みなのでしょうか。
近年、世界各国の宇宙機関や民間企業などで、月面基地や火星移住などの構想が語られるようになってきています。これまでの宇宙滞在は、地球から400km離れた国際宇宙ステーション(ISS)など、比較的近い場所が中心でした。しかし、これからの時代は、地球から遠く離れた月や火星に、しかも宇宙飛行士だけでなく、たくさんの人たちが暮らす時代になると思います。このような状態を実現する過程には、食料の生産や供給が不可欠となってきます。Space Food Xは、多様な参画メンバーとこの課題に向き合い、解決に向けての製品やサービスを生みだし、それを宇宙だけでなく地上のビジネスにも結びつけようという取り組みです。
── どうして「Space Food X」プログラムを始めようと思ったのですか。
JAXAは、これまで国家プロジェクトを中心に、宇宙開発に取り組んできました。最近では、宇宙開発に取り組む民間企業が増えきたこともあり、宇宙関連のビジネスコンテストである「S-Booster」や、起業家と投資家を円滑にマッチングする「宇宙ビジネス投資マッチング・プラットフォーム(S-Matching)」といった政府主導の取り組みを共に推進したり、異分野融合や民生技術との連携などを狙った「JAXA宇宙探査イノベーションハブ」など、民間企業、研究機関などとの新たなオープンイノベーションの仕組みや取り組みを立ち上げてきました。
2018年にスタートした「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)*1」もその取り組みの1つです。現在、J-SPARCでは、「小型ロケットによる輸送サービス事業」、「小型レーダ衛星によるソリューション事業」など、20ほどのプロジェクトが進んでいます。これらの事業はハード開発を主体にしたものですが、人が宇宙滞在するときに必要となる有人宇宙滞在技術にも私は着目していました。
有人宇宙滞在技術の中でわかりやすいテーマの一つが、衣食住に関わる技術です。私はこれまでの経験から、宇宙開発の中でも、衣食住のテーマは多くの企業が期待していて、これから大いに盛り上がるポテンシャルがあると感じていました。その中でも、食の分野は、認知度が高かったのです。例えば、女性の場合は、宇宙と聞いて思う浮かぶ言葉として「宇宙食」が上位にくるという調査結果もあるくらいです。
JAXAは、ISSへの搭乗員のための宇宙日本食という食品メーカーなどが参画できる枠組みを作り、宇宙産業の裾野を広げてきました。そのような経緯もあり、衣食住の中でも、食にフォーカスしたプロジェクトを立ち上げることで、たくさんの人たちに関心を向けてもらい、幅広い人たちと宇宙時代の食を考えていきたいと思ったのです。
[ 脚注 ]
- *1
- 宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC):JAXAの取り組む研究開発型プロジェクトの1つ。宇宙関連事業を推進する意思のある民間事業者などとJAXAがパートナーシップを結び、共同で新事業の創出を目指す。