No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

Expert Interviewエキスパートインタビュー

消費する場所の近くで発電するのが最も理にかなった電力活用の姿である

2018.09.03

盛次 隆宏
(株式会社エナリス 経営戦略本部 経営企画部長)

消費する場所の近くで発電するのが最も理にかなった電力活用の姿である

太陽光や風力など再生可能エネルギーの活用が進み、電力を生み出す手段の多様化が進んでいる。一方、電力を消費する側でも、スマートシティやスマートビル、さらにはスマートホームなど、電力を緻密にコントロールして賢く使う取り組みが始まっている。これまでの電力システムは、大きな発電所で大電力を生み出し、長い送電線を通して電力をはるばる運び、都市や工場で大量消費することを前提に構築されていた。しかし近年は、電力の供給側と需要側がそれぞれ多様化し、これまでとは違った電力システムのあり方が模索されるようになっている。そこで、電力システムの変革に挑むエナリスの経営戦略本部経営企画部長 盛次隆宏氏に、電力を消費する場所の近くに発電設備を配置し、効率的かつ効果的に電力を活用することを狙う“分散型エネルギー社会”の実現に向けた取り組みについて聞いた。

(インタビュー・文/伊藤 元昭 写真:川合穂波(acube/アマナ))

盛次 隆宏氏

現在の電力事業はベンチャー企業の創意工夫が生かせるようになった

── 太陽光発電など再生可能エネルギーの活用が進み、電力の供給側で発電方法が多様化しています。その一方で、需要側でも、HEMS*1やBEMS*2など電力消費を緻密にコントロールして賢く使う新しい消費形態が広がっています。

私たちは、まさに多様化する電力の供給と消費の間を調整するビジネスをしています。発電所を持つ事業者から小売電気事業者への卸売りビジネス、また小売電気事業者と需要家の間に入った高付加価値の電力供給ビジネスなど、一般的な小売電気事業者とは違う電力事業を行っています。そして、これらのビジネスをさらに発展させて、様々な先進的ビジネスを展開しようとしています。

[動画1] エナリスの電力事業の取り組み
提供:エナリス株式会社

── 電力事業には、国策に沿った電力大手だけが扱う巨大ビジネスだという印象があります。ベンチャーが行うビジネスとして、適しているのでしょうか。

現在の電力業界は、極めて大きな変換期の中にあります。確かに、電力自由化前の日本では、電力大手10社が電力の供給すべてを担っていました。その状況では、ベンチャー企業の出る幕は、ありませんでした。しかし、自由化後には、制度が大きく変わり、登録さえすれば小売電気事業者になることができるようになりました。

元々、地域の電力供給を独占していた電力大手は、新しい需要家を探す営業をする必要がありませんでした。建物が建てば、何もしなくても自分たちの顧客になっていたのですから当然です。しかし法改正により、私たちの関連会社であるKDDIのように分厚い顧客基盤を持つ企業は、小売電気事業者になることで、電力を買ってくれる顧客をどんどん獲得できるようになりました。

また、需要側も大きく変化しています。IoTや人工知能(AI)など莫大なデータを活用するITシステムの利用が進み、電力需要の量も質も変わってきています。今後は、一般家庭に太陽光発電システムが導入されるようになり、昼間に余った電気を、電気自動車(EV)を蓄電池代わりにして貯めて使うような利用シーンも当たり前になるかもしれません。

こうした、新しい電力の供給と需要のあり方に合わせた電力利用が進む中で、電力事業には様々なビジネスチャンスが生まれています。ベンチャー企業の創意工夫が生かせるビジネスになったと言えます。

[ 脚注 ]

*1
HEMS(Home Energy Management System): 電力など家庭で使うエネルギーを無駄なく効果的に使うための管理システムのことを指す。家電製品や電気設備の稼働状況や電気、ガスの消費量を見える化したり、機器や設備の自動制御を行う。
*2
BEMS(Building Energy Management System): ビルの中で使うエネルギーをきめ細かく管理するシステムを指す。HEMSのビル版とも言える。ただし、家庭よりも規模が大きくなる分、システムでの監視対象や制御対象は増え、系統との連携や大規模な蓄電・自家発電システムとの連携を行う例もある。さらに、外部企業への管理サービスの委託することも多い。
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