No.021 特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

No.021

特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

AI芸人の登場も遠くはない? テクノロジーが「お笑い」の未来を広げる。

クロストーク ”テクノロジーの未来を紐解くスペシャルセッション”

AI芸人の登場も遠くはない? 
テクノロジーが「お笑い」の未来を広げる。

澤口 俊之
人間性脳科学研究所所長
武蔵野学院大学教授
竹之内 大輔
株式会社わたしは CEO

人間の創作活動に目覚ましい勢いでAIが進出し始めている。絵画、俳句、小説や作曲などの創造性を要求される分野においても、AIの研究成果が相次いで発表され、遂にAIは人間ならではの感情表現「笑い」の世界にも進出した。ユーザーがチャットを送ると、ボケを返してくれるAIサービス『大喜利人工知能(以下、大喜利AI)』である。人それぞれに異なる複雑な感情「笑い」を、個別最適化し提供してくれる対話型AI、その開発に取り組むのが“株式会社わたしは”のCEO・竹之内大輔氏だ。その竹之内氏を、人間性脳科学研究所所長であり『ホンマでっか!?TV』の人気出演者でもある澤口俊之氏が訪ね、人が笑うことの科学的な意味、AIがもたらす笑いの可能性について議論を交わした。

(構成・文/竹林篤実 写真/黒滝千里〈アマナ〉)

AIと人間のコミュニケーション

澤口俊之氏

── 前編の最後で『大喜利AI』を澤口先生に試していただき、先生に笑っていただくのが、いかに難しいかがよくわかりました(笑)。

澤口 ── 笑いのツボは個人差が非常に大きいですからね。まあ、私のような変わった人間を笑わせるのではなく、例えば年齢層ごとにアプローチを変えて笑わせるといった芸当なら、AIの得意とするところじゃないですか。

竹之内 ── おっしゃるとおりです。

澤口 ── 私なんかも講演で笑いを取ろうと狙うんだけれど、全然笑ってもらえず滑ることがよくありますよ。そんなときは「今のは冗談なんですけど」とごまかすしかない。そう言うと何とか笑ってもらえますから。笑ってもらうためには、年齢層や性別、地域性などを考慮する必要がありますね。

竹之内 ── 『大喜利AI』はLINEで使えるので、僕らが出した答えに対してユーザーから面白い/面白くないの判定をしてもらっています。この機能を使えばパーソナライズ、特定の人の笑いのツボにチューニングできるのです。テレビ番組の企画で、お笑い芸人の千原ジュニアさんに判定してもらって育てたモデルと、それとは別にモデルのみちょぱさんにチューニングしてもらったモデルをつくって番組で対決させたりしました。

澤口 ── 学習を続けていけば、ユーザーごとにカスタマイズされた笑いを提供できるようになるわけですね。

竹之内 ── もっとも完璧にというわけではないですが。ただ、大まかな傾向をAIが学習して、個人ごとに最適化していけるようにはなっています。

[図1]大喜利AIのパーソナライズ化
提供:株式会社わたしは
笑いの比較言語学

澤口 ── そもそも大量のデータがベースにあって、確率分布で面白さを見つけ出すメカニズムが整えられていて、さらに実際に使ってもらいながら評価をフィードバックしていけば、特定個人にどんどん最適化できるじゃないですか。すごいですね。

竹之内 ── その際にカギとなるのが文脈なんです。例えばミスタープロ野球といえば、澤口先生の世代だと長嶋さんを思い浮かべますよね。これが平成生まれの人だったらイチローだし、さらに若い世代なら大谷選手となるわけじゃないですか。そこでミスタープロ野球=長嶋さんと受け止める人なら、ミスター日本サッカーといえば釜本さんとなるわけですよ。だから、プロ野球の文脈で長嶋さんでボケをかました人に対しては、続きでサッカー文脈の話題を振ったときには釜本さんでボケなければならない。野球=長嶋とサッカー=釜本をAIに紐付けさせるわけです。

澤口 ── 今の話を聞いて思い出したのが、音楽でのAI活用です。音楽の世界では脳波を測定しながら、その人がリラックスできる音楽をAIがリアルタイム即興でつくって聞かせるサービスが研究されています。脳波を測定すれば、リラックスできているかどうかわかりますから。ただ脳波は電気信号ですから、ものすごく動きが早い。それを随時計測しながら、脳波がリラックスするような音楽を作っていくのです。

竹之内 ── リアルタイムに曲を変えていくのですか。

澤口 ── たぶん、もうすぐ公開されると思いますよ。AIはめちゃくちゃ早いですからね。保育園の選考などでもAIが活用されていて、これまでなら10人ぐらいの職員が1人あたり100時間ぐらいかけていた選考作業を、AIにやらせるとあっという間にできたという話もあります。

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