- 森川 博之
- 東京大学大学院
工学系研究科教授
- 川島 優志
- Niantic, Inc.
アジア統括本部長
エグゼクティブプロデューサー
- 暦本 純一
- 東京大学大学院 情報学環教授
ソニーコンピュータサイエンス研究所
フェロー・副所長
PRESENTED BY
クロストーク ”テクノロジーの未来を紐解く
テクノロジーの進化は、人間の行動や生活に甚大な変化をもたらした。5G時代を迎えようとしているいま、人間がコンピュータとシームレスにつながり、能力を拡げることで、社会にどのような変革を起こすことができるのか。東京大学大学院 工学系研究科の森川博之教授、Niantic.Incアジア統括本部長・エグゼクティブプロデューサーの川島優志氏、そして東京大学大学院 情報学環の暦本純一教授が、「5Gが加速する人間拡張の未来とは?」をテーマに語り合うトークイベントが、テレスコープマガジン20号を記念して開催された。2019年5月13日、東京大学伊藤国際学術研究センターで行われたクロストークイベントの模様をお伝えする。
プレゼンテーション1
東京大学大学院工学系研究科教授 森川 博之
デジタル化があらゆる分野で浸透している。「ありとあらゆるものがデジタル化される」ということは、「ありとあらゆるものがデジタルデータとして行き交う」社会の到来を意味する。その膨大な量のデータをリアルタイムでやり取りするために必要なのが、「大容量の通信インフラ、つまり5Gです」と森川教授は話を切り出した。
これまでにも携帯通信は2Gから3G、さらに4G*2へと順次進化してきた。そのたびに通信速度が速くなり、画像や映像を短時間で送れるようになった。しかし「5G化」に伴って起こるのは非線形的な変化であり、そのとき、従来とは質の異なる世界が誕生する。
5G化に伴って起こる社会の変化について、森川教授は以下のように語った。「これまでは通信を行うデバイスが、携帯電話やスマートフォンなどに限られていました。ところが5Gで実現するIoTでは、従来のスマホだけでなく各種センサー類が通信に加わるため、通信デバイスの種類と数が爆発的に増えるのです」
膨大なデータをやり取りする近未来の状況に耐えうるインフラが、5Gだ。その通信速度は現状の4Gと比べて100倍、通信容量は1000倍にもなる。加えて、通信の遅延時間(レイテンシー)が現在の10分の1まで縮まる点も大きなポイントだ。森川教授は、これによって可能になる新しいチャレンジとして「広告のリアルタイム・ターゲティング表示*3」や「リアルタイムぼかし処理*4」、さらに「e-スポーツ*5」などを例に挙げた。
もう一点、従来の通信システムと決定的に異なる点について森川教授は、「ローカル5G、つまり通信事業者以外の方々が、5Gの周波数を自由に使えるようになることです。たとえば自社の工場内に限定して5Gの独自通信回線を整備すれば、いわゆる『エッジコンピューティング*6』などが実現します」と語った。
こうした特徴を持つ5Gが普及する近未来では、一体何が起こるのだろうか。森川教授はその変化を、「蒸気機関からICT*7へ」と表現した。かつて蒸気機関が鉄道の登場を促し、鉄道の登場がめぐりめぐって郵便、新聞、銀行などの登場につながり、人々の暮らしを根底から変えた。これと同じような変化が起こると、森川教授は語る。
ICTがインターネット、AI、IoT、5G、センサー、クラウドなどの情報通信インフラの登場を促し、これまで見たこともないような社会が誕生する。「洗濯機の登場が家事労働を減らすだけにとどまらず、人々の衛生観念を根底から変えたように、5Gも今後、我々の生活や考え方を大きく変えていくはずです」というのが、森川教授の考えだ。